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その96の5『スポンジの話』

 謎の対抗意識から、亜理紗ちゃんは頑張ってスポンジをしぼり続けていました。今度は少ししぼる向きを変えて、家の壁に水がかかるようにしてスコップを押しつけます。それでも一向に尽きることなく、スポンジからは大量の水があふれ出してきます。


 「……アリサ。何してるの?」


 「あっ……お母さん」


 「おうちの壁、キレイにしなくていいからね。まだケーキあるから、2人とも遊ぶのに飽きたら食べに来て」


 壁に水がぶつかる音を聞き、亜理紗ちゃんのお母さんが窓から声をかけます。もう水をかけないようにと注意されてしまったので、スポンジとの勝負もお開きです。知恵ちゃんはケーキを食べに行こうと、スコップを持つ手を離しました。


 「アリサちゃん。行く?」

 「むむむ……」


 どれくらい水が出続けるのか調べたい様子の亜理紗ちゃんでしたが、しょうがないとばかりにスポンジの上からスコップをどけます。すると、ややスポンジの形が変わっていることに気づきました。


 「あれ……割れた?」

 「……ん?」


 スポンジの右上の方が少しだけちぎれて、小さなカケラとなって落ちていました。スポンジ1個まるまるは重すぎて持ち上げられませんが、指先サイズのカケラならば持ち運ぶことができそうです。それを亜理紗ちゃんはつまみ上げてみます。


 「……重い。ちーちゃんくらいありそう」

 「そんなに?」


 こんなに小さなものが、自分の体重ほども重さがあるとは思えません。でも、持てないほど重かったら困るので、あえて知恵ちゃんは持てるかどうかチャレンジもしません。亜理紗ちゃんはいっぱい手を伸ばしてスポンジを体から離し、ぎゅっと指先に力を入れてみました。


 「……うわ」


 スポンジは指におさまるほど小さいのに、中からはホースで流したほども水があふれ出てきます。これなら持ち運べそうだと見て、亜理紗ちゃんはスポンジを持って庭の奥へと移動しました。


 「なにするの?」

 「ちょっと、てっぽうにして遊んでみる。それからケーキを食べに行こう」


 亜理紗ちゃんはスポンジのカケラを地面に置いて、物置からボールを持ってきました。ゴムボールを庭の真ん中に設置し、また重そうにスポンジを持ち上げて、狙いを定めて構えます。


 「……」


 ぎゅっとしぼったスポンジのカケラから水が飛び出し、5メートルほども遠くにあるゴムボールを押して転がしました。よく当たったものだと、知恵ちゃんは拍手しています。


 「もっと遠くからでも当てれる?」

 「やってみる」


 知恵ちゃんの予想に反して、亜理紗ちゃんの射撃は的確です。まるで水がボールに吸い寄せられるように、どこから水を飛ばしても当たります。自分にもできるのではないかと、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんからスポンジを貸してもらいました。


 「重いよ?」

 「うん……」


 手のひらに乗せてもらったスポンジはずっしりと重みありますが、かなりしぼったのもあって、知恵ちゃんに持てないほどではありませんでした。亜理紗ちゃんのマネをして、遠くにあるボールを狙って水を発射します。


 「……?」


 なぜか水は真横に飛び出してしまい、ボールの方へと飛んでいきません。何度やっても、物置の方へと噴き出してしまいます。自分には射撃の才能がないのかと知恵ちゃんはガッカリしますが、亜理紗ちゃんは水の飛んでいく方向を不思議そうに見ていました。


 「……あれに飛んで行ってるんじゃないの?」

 「……あれ?」


 亜理紗ちゃんの指さした方、物置の影となっている場所に、小さな白いお花が咲いていました。あまり雨も当たっていないのか、頭を下げて元気がありません。


 「ちーちゃん。水、あげよう」

 「……」


 しおれているお花に近づき、知恵ちゃんがスポンジをしぼってみます。水をあびたお花は水を吸って、少しだけ元気を取り戻しました。庭のブロック壁の近くにも、似たようなお花があります。今度は亜理紗ちゃんがスポンジを借りて、そちらに水をあげます。


 「……あ」


 水にぬれたお花を見ている内、空が明るんできたのを亜理紗ちゃんは知りました。曇り空から太陽が顔を出します。スポンジの水と太陽の光で、お花はキラキラと輝きます。花びらの色も黒ずみが取れ、葉っぱだってピンとしました。もうお花はすっかり元気です。


 「あれ?ちーちゃん。スポンジは?」

 「……ない」


 お花に水をあげ終わると、いつの間にかスポンジは知恵ちゃんの手から消えていました。花壇の近くに置いたままだったスポンジも、もうすっかりなくなっています。それを見て、亜理紗ちゃんはスポンジが雨をたくわえていた理由に気づきます。


 「水をあげたかったから、雨をためてたのかな?」

 「そうなのかな……」


 スポンジの水をたくさん浴びた花壇の植物も、健康そうに背筋を伸ばしています。それを見つめている中で、知恵ちゃんのお腹がなりました。お花も元気になったようなので、今度は自分たちもおやつにしようと、亜理紗ちゃんは立ち上がりました。


 「……ちーちゃん。ケーキ食べに行こう」

 「うん」


その97へ続く

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