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その96の3『スポンジの話』

 スポンジらしき謎の物体は、押しても引いても水がにじみ出すだけです。やわらかいのにずっしりと重くて、動かすこともできません。移動させるのは諦めて、渋々ながら亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは家の中へと戻ります。


 「あれ……アリサ。どうしたの?」

 「雨を見てきた」

 「……?」


 外で何をしてきたのかとお母さんに聞かれますが、言って片付けられてしまうのもイヤなので、亜理紗ちゃんもスポンジの件を説明しません。その後も雨は一向に止まず、亜理紗ちゃんは30分おきにスポンジを見に行ってしまいます。でも、スポンジの大きさに変わりはなく、ただただ耐え忍ぶようにして雨に打たれています。そうしている内、夕方を前にしてお茶を飲み終え、知恵ちゃんのお母さんが腰を上げました。


 「長々とオジャマしました。知恵。そろそろ帰るよ」

 「うん」


 家はすぐ隣なので、走れば大してぬれずに帰れます。でも、念のために傘を借りていき、無事に雨を切り抜けました。お母さんは夕食の仕上げを始め、知恵ちゃんはテレビを見ています。今日はお父さんの帰りが遅い日なので、夜7時には先にご飯を食べてしまいました。


 「……」


 食後、知恵ちゃんは部屋に戻ってマンガを読んでいましたが、窓の外には雨の落ちる音が鳴り続けていました。カーテン越しに車のヘッドライトが見え、お父さんが帰ってきたのに気づきます。お迎えをしようと階段を降りますが、犬のモモコの方が少しだけ早く玄関についていました。


 「おかえりなさい」

 「ただいま。雨、やまなかったよ……」

 「おかえり。明日の昼までは降るんだって」


 リビングへ入り、お父さんとお母さんは天気の話をしていました。お父さんは少し遅めの夕食をもらい、知恵ちゃんはケーキのことをお父さんに教えます。


 「ケーキあるの」

 「どんなケーキ?」

 「チーズのケーキ。とってあげる」

 「う~ん……でも、先にご飯にするね」


 お父さんはハンバーグとごはんとサラダを食べます。そして、食後のデザートにチーズケーキをもらいました。お父さんがチーズケーキを食べるのを見れたので、知恵ちゃんは満足して部屋へと戻ります。まだ冷蔵庫にはケーキが残っているので、学校から帰るまで残っていたらもらおうと考えっつ、布団に入って静かに雨音を聞いていました。


 「……まだ降ってる」


 朝です。雨の勢いはとどまることを知らず、むしろ強まっているようにも見えます。天気予報では午後にはくもりマークになっています。知恵ちゃんは朝ご飯や学校へ行く準備をすませると、傘と長ぐつで守りをかためて家を出ました。


 「おはよう。ちーちゃん」

 「おはよう」


 亜理紗ちゃんが家から出てきました。こちらも長ぐつと傘で雨の対策をとっています。学校へ行く前に、昨日のスポンジのようなものを見ていきます。


 「……」


 スポンジは大きくも小さくもならず、姿に変化はありません。昨日の放課後の頃からずっと、絶え間なく雨に打たれ続けています。


 「さわってみようかな……」

 「……今は止めておいたら?」


 しとしとになっているスポンジの感触を確かめようと、亜理紗ちゃんが恐る恐る指でつついてみます。


 「……うわっ!」


 突然、水風船が爆発したように、スポンジから水が飛び出しました。上半身に水がかかるのは傘で防ぎましたが、亜理紗ちゃんのズボンはぬれてしまいました。


 「……危なかった」


 そう言って亜理紗ちゃんが振り返ると、そこには髪までぬれてビショビショになった知恵ちゃんが立っていました。ここまで豪快に濡れてしまうと、さすがに着替えなくては学校に行けません。


 「……着替えてくる」

 「ちーちゃん……ごめん」


 急いで家で着替えをすませ、速足で学校へと向かいました。雨は追い打ちをかけるように強まり、雨で重みの増した傘を支えながら2人は走ります。


 「ちーちゃん!ごめん!」

 「いいって……」


その96の4へ続く

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