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その96の1『スポンジの話』

 「……」


 放課後、家に帰ってきた知恵ちゃんは、家の前に小さなものが落ちているのを発見しました。生き物ではないようなので、指先を立ててひろい上げてみます。それは黄色くて、見た目はチーズのようです。ふかふかとした手触りで、ほとんど重さは感じられません。


 「ちーちゃん。なにそれ?」

 「落ちてた」


 亜理紗ちゃんに手渡します。謎の物体は手のひらで握ってみると、くしゅっと縮みました。手を開けば、元通りの大きさに戻ります。触り心地はザラザラで、顔を近づけてみても、においはありません。その内、亜理紗ちゃんは、それに似たものを思い出しました。


 「……ケーキかな?」

 「ケーキ?」


 謎の物体を返してもらい、知恵ちゃんも手で握ったり、指でこねたりしてみます。言われてみれば、それはクリームを塗る前のケーキに似ています。おいしそうですが、道路に落ちていたものを食べる気にはなりません。スポンジケーキに似たものを見ていたら、亜理紗ちゃんのお腹が鳴ってしまいました。


 「おなか空いちゃった。なにかおやつあるかな」

 「うん」


 一緒に遊ぶ前に家で何か食べようと、2人は家の前で別れて自宅へと入りました。謎の物体は誰かが落としたものだろうと考え、道路のジャマにならない場所へと置いていきました。


 「ただいま……」

 「おかえり。今日はアリサちゃんと遊んでくるの?」

 「……まだ決めてないけど」


 家に帰ってきた知恵ちゃんへと、お母さんが亜理紗ちゃんのことをたずねます。こうして聞かれる時は大体、何かお菓子の用意がある時です。ちょっと期待しつつも、知恵ちゃんはお母さんに聞き返しました。


 「なんで?」

 「ケーキ買ってきたから、食べるかなって」

  

 お母さんが白い箱を指さします。すると、お母さんの携帯電話から着信音が聞こえてきました。


 「……はい。ええ。はい」


 お母さんが電話とお話を始めたので、知恵ちゃんはランドセルを置きに2階の自分の部屋へと向かいました。洗面所で手も洗い、リビングへ戻ります。その時には、もうお母さんの通話は終了していました。


 「アリサちゃんのお母さんから電話でね」

 「……?」

 「えっと……ケーキあるから、食べに来ないかって」


 ケーキの相談をしていたところ、逆にお誘いをもらってしまいました。すると、一方的に頂くのも申し訳ありません。知恵ちゃんのお母さんはケーキを箱から取り出して、ナイフで2切れほど切り出します。


 「じゃあ、お母さんも行くから、ちょっと待ってて」

 「お母さんも行くの?」


 たまの機会なので、お母さんも亜理紗ちゃんの家へ遊びに行くようです。お父さんの分のケーキを切り分けて冷蔵庫へ入れ、残りは箱へと戻します。クリームも乗っていない、やや焦げ目のついた黄色いケーキを見て、知恵ちゃんは味を尋ねました。


 「なにケーキなの?」

 「スフレチーズケーキだよ」


 ケーキの形はふっくらと丸くて、とても柔らかそうに見えます。スフレの意味は知恵ちゃんには解りませんでしたが、外に落ちていたスポンジに少し似ているように見えました。


 紅茶なども選んでバッグに入れます。お母さんの用意が終わると、知恵ちゃんは隣にある亜理紗ちゃんの家へと向かいました。インターホンを鳴らしたところ、すぐに亜理紗ちゃんのお母さんが出迎えてくれました。


 「おみやげまでいただいて。お気遣いよかったのに」

 「いえ、うちもケーキがあったので」


 亜理紗ちゃんの家のリビングでは、もう待ちきれない様子で亜理紗ちゃんがお皿の前に座っています。テーブルの中央に、どこかで見たような白い箱があります。それと、お母さんの持っている箱を知恵ちゃんは見比べています。


 「あれ……お母さん。同じ?」

 「あら」


 白い箱を2つ並べて、お母さんたちは同時にフタを開きました。少し切られているので形は違いますが、まったく同じチーズケーキが箱の中から現れます。偶然が重なることもあるものだと、みんなは驚いてしまいました。


その96の2へ続く

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