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その95の5『火山の話』 

 近所の家で作っているであろうカレーの香りに、知恵ちゃんは夕食のハヤシライスを思い出します。亜理紗ちゃんは土だまりにできた穴のまわりをぐるぐる歩いて、中から出てくる湯気の正体を探っています。


 「気になる……入ってみよう」

 「入るの?」

 

 中に何があるのか気になって仕方がないので、亜理紗ちゃんは穴の中に足を下ろしてみました。深さは亜理紗ちゃんのヒザくらいですが、地中へと続く階段があるのに気づきます。土の下には建物のような石の壁があって、キレイに作られた通路が、ななめ下へ向けて続いています。壁には金色の模様が入っていて、中へ続く矢印に似て描かれています。


 「アリサちゃん……行くの?」

 「1メートルだけ。1メートルだけだから」


 そう言いつつも亜理紗ちゃんは、とっくに1メートル以上は進んでいて、すでに知恵ちゃんの位置からは亜理紗ちゃんの姿が見えません。知恵ちゃんが待ちぼうけるすきもなく、すぐに亜理紗ちゃんは地下から戻ってきました。


 「なんか……下に、からそうなカレーあったんだけど……」

 「からそうなカレー?」

 

 亜理紗ちゃんは階段の下を指さしています。土の中にカレーがあるとは思えず、踏みとどまっていた知恵ちゃんも興味に引かれて、穴に入ってみることにしました。地中は体感気温が2度ほど高く、にじんだ汗でTシャツがぺったりと体にくっついてしまいます。

 

 「からそうなカレーだ……」

 

 階段を5段くらい歩いた先には、展望台のような場所がありました。丈夫に作られている手すりの下にも、更に深く深く穴が広がっていて、辛そうなカレーみたいなものが学校の校庭ほどもある広い場所にたまっています。ただ、地上とは違い、ここにカレーの香りはありません。


 「激辛カレーだ」

 「熱そう……」


 亜理紗ちゃんがカレーと呼んだ真っ赤なものは熱と光を放っており、表面には輝く泡が浮かんでははじけます。地上で聞いた時はグツグツとしていた音も、地中で聞くとゴポゴポと粘度の強い音に変わりました。


 「アリサちゃん……あれ、溶岩じゃないの?」

 「ようかんだったか……」

 「お菓子じゃない……」


 天井には穴が開いていて、そこからは青空がのぞいています。バサバサと布のはためくような音が聞こえてきました。空から、黒いものが飛行しながら降りてきます。


 「ちーちゃん。なんか……カラスが来たよ」

 「カラス……」


 それは明らかに知恵ちゃんと亜理紗ちゃんの体よりも大きくて、羽の他に爪の生えた手足もあります。しっぽもあります。鳴き声はギャオギャオです。カラスではありません。もちろん、鳥でもありませんでした。


 2人がいる場所の他に、溶岩に触れるくらいの低い場所にも別の足場があります。黒い恐竜のような生き物は四つばいになって、熱そうな溶岩へと首を伸ばします。


 「ぎゃおぎゃお!ぐばぐば!ぎゃおぎゃお!ぐばぐば!」


 熱さも気にせず、黒い恐竜は溶岩を食べ始めました。熱いからか辛いからか、黒かった体が赤くなっていきます。でも、食べるのはやめません。


 「ちーちゃん……やっぱりカレーだ」

 「カレーかもしれない……」


 あまりに美味しそうに溶岩を飲み込むので、恐竜の様子を見下ろしている知恵ちゃんも、本当はカレーなのではないかと疑っています。熱さで恐竜の体は赤く光り出しています。しばらくすると、恐竜は食事をやめました。


 「ぎゃ……」

 「……ごちそうさまなのかな」


 お腹いっぱいになったのかと亜理紗ちゃんは見ていますが、恐竜は壁の穴へと体をつっこんで、黒い液体の入ったビンを取り出しました。それを両前足で器用に、じゃばじゃばと溶岩へ入れます。真っ赤に光っていた溶岩の一部が、やや茶色くにごりました。


 「ぎゃおぎゃお!」


 味付けを変えて、また恐竜は溶岩を口に入れます。それがまるで、カレーにお醤油をかけているように見え、知恵ちゃんは怪訝な顔をしていました。


 「カレーにお醤油だ……」

 「うちのお父さんはかけるけど……」

 「……え?」

 「うちのお父さんはかけるんだけど……」

 「ひええ……」


 黒い恐竜が溶岩を食べていることより、カレーにお醤油をかける人がいる事実に、やや知恵ちゃんは戸惑いました。

その95の6へ続く

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