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その95の4『火山の話』 

 「いた!ちーちゃん!ネコさんだ!」

 「……もういない」

 「あっ!ちーちゃん!ネコさんだよ!」

 「……もういない」


 見つけたと思っても、すぐにネコさんはいなくなってしまいます。ネコさんを尾行するのは難易度が高いと見て、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは途方にくれました。これでは温かい場所を探す事ができません。ネコさんを追いかけて走りまわり、疲れ果てて息だけが荒くなります。


 「はぁ……あれ?ちーちゃん。なんか、暑くない?」

 「あつい」

 「……ここが、熱さの真ん中かもしれない」


 亜理紗ちゃんは持ってきた温度計を見てみます。温度は家の前と変化はありません。たくさん運動をして、2人の体温が上がっただけだと知りました。


 「はぁはぁ……運動すると暑くなる。私たちが太陽なのかもしれない」

 「アリサちゃん……ちょっと休んで」


 ついに意味の解らないことを言い出したので、亜理紗ちゃんの息が整うまで2人は低い石の壁に座って休む事にしました。ネコさんが目の前を歩いていくと、亜理紗ちゃんが立ち上がろうとします。それを知恵ちゃんは肩をつかんでおさえます。


 「……落ち着いてきた」

 「そっか」


 落ち着いてきたにも関わらず、なかなか体温は下がりません。亜理紗ちゃんは知恵ちゃんのおでこを触ってみたり、自分のおでこを触ってみたりしますが、風邪を引いている様子もありません。違和感の正体を探るべく、亜理紗ちゃんは立ち上がって自分の体を触っています。


 「む……おしりが熱い」

 「……?」


 おしりが熱いということは、おしりの下が熱かったのだと答えが導き出されます。座っていた石に触れてみたところ、床暖房をつけているようにポカポカとしていました。他の場所も、コンクリートの地面も、土のある地面も、手をつけてみると、ぼっとした熱が伝わってきます。


 「ちーちゃん……解ったぞ。太陽は地面の下だ」


 いつしか、亜理紗ちゃんの中で熱源は太陽と名付けられました。空にはサンサンと太陽が昇っています。2つ目の太陽を目指して、亜理紗ちゃんは中腰で歩き出しました。


 「どんどん熱くなってきた……近いぞ」


 もう温度計は知恵ちゃんに手渡して、亜理紗ちゃんは地面の熱さだけを頼りにして道を進んでいきます。自宅の前を通って、背の低い草っぱらを抜けて、2階建てアパートの近くを通ります。


 「……」


 広い空き地があります。いつもは砂が山のように積んであるのですが、今日はトラックが持って行ったので、あまり砂はありません。代わりに、ちょっとした茶色い土の山ができあがっています。足元に気をつけながら背伸びをして、土山のてっぺんをのぞいてみます。


 「アリサちゃん……何かあった?」

 「穴があった」


 土山の上には黒くて丸い穴があります。穴の中には足場が見えており、落っこちてしまう心配はありません。何も言わずに入っていこうとする亜理紗ちゃんを引き留めて、知恵ちゃんは再び穴の中をのぞきこみます。


 「……なんか、音がしない?」

 「なに?」


 穴の近くにしゃがみ込んで、静かに耳をすませます。ぐつぐつと音が聞こえます。空き地でキャンプしている人などいないので、お湯の沸く音などするはずがありません。やっぱり、音は穴の中から聞こえてくるようです。


 「穴の中に……お湯があるのかな?」


 知恵ちゃんが手を伸ばしてみると、穴の上に、うすく湯気がたっているのが感じられました。ここにいるだけで、シャツにも汗がつたいます。加えて、亜理紗ちゃんが不思議そうに言いました。


 「……カレーのにおいもする」

 「……それはきっと、近くの家で作ってるだけだと思うんだ」



その95の5へ続く

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