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その95の3『火山の話』 

 「……」

 「知恵ちゃん。Tシャツ、かわいいね」

 

 暑さに苦しむくらいならとセーターを脱いだところ、今まであまり話をしたことがない女の子にTシャツをほめられてしまいました。午後になっても夏並みの暑さが抜けず、その日はずっと知恵ちゃんはTシャツ姿でいました。


 「でも、ちょっと涼しくなった?」

 「そうかな……」


 思わぬ温かな一日に驚かされるも、今日は体育の授業もなく、それなりに苦労もなく放課後を迎えました。百合ちゃんは少し涼しくなったようだと言っています。Tシャツをはずかしがっていた知恵ちゃんは開き直ってセーターを着ず、それを手に抱えたままランドセルを背負いました。


 「あ……ちーちゃんが脱いでる」

 「やっぱりあつかった……」


 亜理紗ちゃんが別のクラスからやってきたので、桜ちゃんや百合ちゃんたちと一緒に学校を出ました。結局、学校ではセーターの出番も大してなく、亜理紗ちゃんと2人で歩く帰り道でも、知恵ちゃんはセーターをマントのように肩からはおっていました。


 「あっ。ネコちゃんが寝てる」


 亜理紗ちゃんが指さした方には日陰があり、その中でネコさん眠っています。いつもは温かな場所を探して眠っているのですが、今日は暑いので、なるべく涼しいところで寝ているようです。昨日はジャンバーを着て丁度よかったほどなのに、これだけ暑くなってしまったことを亜理紗ちゃんは不思議に思っています。

 

 「……う~ん。おかしい」

 「……?」


 亜理紗ちゃんは帰り道で立ち止まって、さんさんと輝いている太陽を見上げます。それから、太陽のない方向へと視線を移動させ、知恵ちゃんに同じ言葉を投げかけました。


 「……おかしい」

 「なにがおかしいの?」

 「なんで今日、こんなにあったかいんだろう……」


 そんなことを言われても、地球の事情についてなど知恵ちゃんには考えも及びません。すると、なにがおかしいのか。家の前に到着すると、亜理紗ちゃんは今日の課題を発表しました。


 「何が熱いのか、調べよう」

 「調べるの?」

 「かばん置いたら、ここに戻って来て」


 どうやって調べるのだろうかと考えながらも、知恵ちゃんは自宅にランドセルとセーターを置き、外へ遊びに行ってくるとお母さんに伝えました。テレビの天気予報では、今日は気温が低いと報じられています。なのに、実際はジャンバーどころか、セーターすら必要がありません。冷たいジュースを飲んでから、知恵ちゃんは家の前へと戻ってきました。


 「あれ?ちーちゃん……Tシャツ着替えた?」

 「うん」

 「さっきのでよかったのに……」


 知恵ちゃんはかわいいキャラクターのTシャツから、ただの茶色いシャツへと着替えてきていて、亜理紗ちゃんは少しガッカリしました。そんな亜理紗ちゃんの手には長いプラスチックの棒が握られています。


 「アリサちゃん。それなに?」

 「温度計。これで熱い場所を探すよ」


 それは部屋の温度をはかるための道具で、お母さんに言って家から借りてきたようです。まず、家の前の気温を調べます。


 「ここより、もっと暑いところを探そう」

 「どっち?」

 「えーと……あっ!」


 ふと、ネコさんが日向を歩いていくのを見つけます。きっとネコさんなら、温かい場所を知っているはずだとして、亜理紗ちゃんは1つ指針を決めました。ネコさんのあとをつけて、2人は街を進んでいきます。


 「あそこを曲がった」

 

 細い路地へ、ネコさんが入っていきます。亜理紗ちゃんは急いで追いかけますが、角を曲がったところで、すでにネコさんはいなくなっていました。また後ろには、別のネコさんがいます。そちらを追いかけて、今度は別の道に入ります。でも、すぐに見失ってしまいます。その素早さについていけず、亜理紗ちゃんは諦めつつも、つぶやきました。


 「あれは、きっと忍者ネコだ……足が速い」

 「それは……普通のネコだと思う」


その95の4へ続く

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