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その95の2『火山の話』 

 次の日の朝、ベッドで目を覚ました知恵ちゃんは、カーテン越しにも陽の熱を感じました。昨日の夜は頭までフトンを被るほどの寒さだったのに、今日は汗をかくくらいに部屋の空気が温められています。そのおかげで寝起きもよく、目覚まし時計が鳴る前に着替えを済ませて、リビングへと降りていくことができました。


 「おはよう」

 「おはよう。知恵も、なにか飲む?」


 リビングにはストーブもついておらず、でも部屋の中は十分にポカポカと温まっています。体感だけで見れば、まるで夏が戻って来たようです。お母さんに牛乳をいれてもらって、知恵ちゃんは朝ご飯を作る音を聞いていました。まだハヤシライスの香りが残っているのを知り、それを食べたいとお母さんに伝えます。


 「昨日の、まだあるの?」

 「あるけど、朝から食べれる?」

 「うん」


 昨日の夕食を機に、知恵ちゃんはハヤシライスが好物になったので、朝からこってり料理でも全く苦ではありません。一晩中、スープにつかっていた牛肉と玉ねぎはトロトロになっていて、味もじっくりと染み込んでいます。知恵ちゃんの横でお父さんは、ハヤシライスではなく目玉焼きとパンを食べています。


 「お父さん。今日、ジャンバーいるかな?」

 「どうだろう……ジャンバーは、いらないんじゃないかな?」


 夜になれば寒さが戻ってくるかもしれません。ただ、今のポカポカ陽気からは、寒くなる気配は感じられません。朝ご飯を終えて支度をすませると、知恵ちゃんはお父さんの言う通りに防寒着を持たず、だけどセーターは着込んで家を出ました。


 「おはよう。ちーちゃん。今日、温かいね」

 

 家の前で待っていると、亜理紗ちゃんが夏の装いで隣の家から出てきました。さすがに半そででは寒いのではないかと、知恵ちゃんは心配の気持ちをわずかに伝えます。

 

 「寒くない?」

 「う~ん……同じクラスの美奈子ちゃん、いつも冬でも半そでだから、きっと大丈夫」

 

 それは体に十分にお肉がついている人だから大丈夫なのであって、亜理紗ちゃんにも当てはまるのかは知恵ちゃんにも疑問です。とはいえ、暗くなる前には家に帰ってきますし、雨も降る様子はありません。家も学校から近いので、問題ないとして2人は登校しました。


 「アリサちゃん。ハヤシライスって知ってる?」

 「もやしライスなら、たまに家で出るけど」

 「それは、どういう料理なの……」


 知恵ちゃんはハヤシライスの美味しさに感動したので、通学路を歩く中で亜理紗ちゃんにも知っているかと尋ねています。すると、思わず知らない料理が返答されてしまい、逆に知恵ちゃんの方が困惑しました。


 「じゃあね。ちーちゃん」

 「うん」


 教室の前で亜理紗ちゃんと別れて、知恵ちゃんは自分のクラスへと入ります。クラスメイトの桜ちゃんと百合ちゃんも半そでのTシャツ姿で、教室も外気を取り込んで温まっています。やや汗を流している知恵ちゃんを見て、それを暑そうに思った桜ちゃんが声をかけます。


 「おはよう……知恵、熱くない?」

 「あつい……」

 「上だけ脱いで、イスにかけといたら?」

 「……いい」


 どう見ても暑そうな知恵ちゃんなのですが、セーターを脱ぐことに関してはかたくなです。桜ちゃんが疑問の表情を浮かべていると、何か勘付いた様子で百合ちゃんが、教室のすみへと知恵ちゃんを連れて行きました。


 「……」


 百合ちゃんがしゃがみこんで、知恵ちゃんのセーターの中を下からのぞいています。確認し終わって戻ってきた百合ちゃんが、ぼそっと桜ちゃんに耳打ちしました。


 「……すごい、かわいいTシャツだった」

 「……そういうことか」


 どうせ脱がないと思い、ファンシーTシャツを着てきてしまった為、知恵ちゃんはセーターを脱ぐに脱げずに後悔していました。

その95の3へ続く

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