その94の3『魔法少女の話』
「ちーちゃん。次の魔法は?」
「次って……」
どんな魔法も効かない無敵の体なのに、怪獣の亜理紗ちゃんが攻撃を催促してきます。知恵ちゃんはオモチャのコンパクトのボタンを押して次の魔法を探そうとしますが、思いとどまって杖を下げました。
「……そういえば、なんで怪獣は杖を取ろうとするの?」
「なんでって?」
「アリサちゃんが振っても光らないのに、なんで取ろうとするの?」
急に質問を投げられ、亜理紗ちゃんは両手を上げたまま硬直してしまいました。困惑した顔のまま、亜理紗ちゃんは戦う理由を探しています。
「だだだ……だって、私のだし……」
「怪獣が持ってた杖を私が持ってるなら、私が悪い人なの?」
「ちーちゃんはいい魔法使いだよ!」
「じゃあ、やっぱりアリサちゃんが悪い怪獣なの?」
「アリサウルスはいい怪獣なんだけど……」
「いい魔法使いと、いい怪獣は戦わないんじゃないの?」
「……ちょっと待ってて」
話のつじつまがあわなくなってしまい、亜理紗ちゃんも言い訳が考えつきません。一旦、亜理紗ちゃんは着ぐるみパジャマを脱いで、腕組みしながら考え事を始めます。知恵ちゃんは杖をキラキラさせるのにも慣れてきて、光の軌跡で絵が描けるようになってきました。
「……」
黙ったままパジャマを着直すと、亜理紗ちゃんはテンションを上げつつ戦いを再開しました。
「アリサウルスの杖を使っていいかどうか、テストしているのだ!テストだから、倒さなくてもいいぞ!」
考えに考え抜いた結果、杖を授けるかどうか試練を与えている事にしたようです。倒さなくてもいいという設定になったので、知恵ちゃんも納得して次の魔法の用意を始めます。コンパクトのボタンを押すと、アニメの声が魔法を紹介してくれました。
『ラブリービームよ!怪獣も私を好きになっちゃうわ!』
「……」
攻撃の魔法ではないものが紹介されてしまったので、コンパクトのボタンを押し直して別の魔法を調べようとします。でも、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんのラブリービームを見たいと、期待の笑顔を向けています。
「ラブリービームは?」
「だって、攻撃じゃないし……」
「見たいなぁ……ちーちゃんのラブリービーム」
「……ちょっと待ってて」
一度、知恵ちゃんは杖を亜理紗ちゃんに手渡し、脱いだボウシを胸の前に持ったまま、しゃがみ込んで考え事を始めます。ラブリービームのイメージトレーニングをします。亜理紗ちゃんの時よりも少し長めに悩んだ結果、知恵ちゃんはボウシを亜理紗ちゃんに返しました。
「私、魔法使いやめる」
「えー……やめないで」
「……じゃあ、やる」
「はい」
素直に引き止められたので、仕方なく杖とボウシを装備し直します。戸惑いつつも、知恵ちゃんは杖の先の光でハートマークを描きながら、小さい声で呪文をとなえます。
「ら……ラブリービーム」
「……」
亜理紗ちゃんは着ぐるみパジャマのフードを脱いで、にこにこしながら魔法の効果を口にしました。
「アリサウルスは、ちーちゃんが好きになりました。戦いは終わりです」
「効いたんだ……ラブリービーム」
「……」
亜理紗ちゃんは杖を持っている知恵ちゃんの手をにぎり、試練の結果を発表します。
「これからも頑張って、悪い怪獣と戦ってください。アリサウルスの杖をあげます」
アリサウルスの杖は理由もなく先端が光るので、杖とは呼んでいましたが、魔法らしい魔法なんて全く出せません。改めて見たら、ただの枝です。それを確認しつつも、知恵ちゃんはアリサウルスの好意に、つつしんで答えを返しました。
「い……いらない」
その95へ続く






