その93の7『お風呂の話』
お猿さんが先にお風呂から上がり、うさぎさんものそのそと岩を登ってお湯から出ていきました。でも、まだ金色のラッコはお風呂に入り足りておらず、他の動物たちが出た後もお湯から出る気配はなく、プカプカと温泉に浮かんでいました。
「アリサちゃん……熱くなってきた」
「出る?」
お風呂の中でブクブクしている泡は肌に当たると気持ちがよく、お湯の温度も決して高くはありません。でも、もう10分くらいは入っているので、知恵ちゃんの顔は真っ赤です。亜理紗ちゃんも温泉を十分に堪能したので、そろそろ出ようかと相談を始めます。
「わあ……ちーちゃん。ぴかぴかだ」
温泉から出た知恵ちゃんの体は、ラメをぬったように細かく輝いていました。手やタオルでふいてみますがキラキラは消えず、温泉の効能で肌がうるおったのだと解ります。2人が温泉から上がったのを見て、ラッコもお風呂から泳いで出てきました。
「また、どこか行くのかな」
「私、もう熱いから入れないよ……」
体の熱くなってしまったので、知恵ちゃんは次のお風呂には入れないと言っています。でも、どんな温泉が他にあるのか気にはなるので、2人はラッコについて行ってみることにしました。
「……泡が減ってきた」
景色をおおっている泡が次第に消え、空気がクリアになっていくのが知恵ちゃんには感じられました。ラッコは岩が段々になっている道をはって進み、その先にある大きな洞窟へと入っていきます。日陰になった場所へ入ると、ザブンという音と共に、前を進んでいたラッコの姿が消えました。
「……あれ?」
どこに行ったのかと、亜理紗ちゃんはしゃがみ込んで日陰の先を見つめます。洞窟の中の暗い場所には波紋が広がっていて、そこにラッコの銀色の背中が浮かんできました。この洞窟にも温泉がたまっているようです。温泉に浮かんでいるラッコと、亜理紗ちゃんを交互に見て、知恵ちゃんはどうしようかと口にします。
「……お風呂だ。入る?」
「……これ、水だ」
「……水?」
「少しお湯の水だ」
「少しお湯の水?」
亜理紗ちゃんは水に手をつけて、その温度を確かめています。手の先から、体内に溜まっていた熱が水に流れて、じんわりと逃げていくのが感じられます。洞窟の中の水は温水プールくらいの温かさであり、深さは2人のヒザ上くらいしかありません。
「入る」
「入るの?」
亜理紗ちゃんが水に入って、体育すわりで体をしずめます。知恵ちゃんも同じく、亜理紗ちゃんの横に座り込みました。水の冷たさが体にしみて、普段の体と同じ温度になるよう調節していきます。ラッコの周りを白い魚影が動き、知恵ちゃんたちの腰の辺りにもやってきました。
「つめたくて、きもちいい」
はーっと亜理紗ちゃんは白い息を吐き出し、最後の熱を体から出します。そうして上を見ると、洞窟へ差し込む光がぼやけています。気づけば、2人は亜理紗ちゃんの家のお風呂へと戻ってきていました。すっかり泡のなくなったお風呂は温度も下がって、ぬるま湯に変わっています。そこへ、亜理紗ちゃんのお母さんが顔を出します。
「まだ入ってたの?アイスあるけど、上がったら食べる?」
「……ちーちゃん。アイスだって。食べる?」
「うん」
「お母さん。シャワーのお湯、あっついの出して」
「どうしたの?」
「アイスを食べる準備」
体を温めたあとに食べるアイスを思って、亜理紗ちゃんはお母さんにシャワーのお湯を出してくれるようお願いしました。冷たいアイスの為にも、体を十分に温めます。そして、泡のなくなったお風呂を見つめたあと、2人は浴室を出ていきました。
その94へ続く






