表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
322/367

その93の7『お風呂の話』 

 お猿さんが先にお風呂から上がり、うさぎさんものそのそと岩を登ってお湯から出ていきました。でも、まだ金色のラッコはお風呂に入り足りておらず、他の動物たちが出た後もお湯から出る気配はなく、プカプカと温泉に浮かんでいました。


 「アリサちゃん……熱くなってきた」

 「出る?」


 お風呂の中でブクブクしている泡は肌に当たると気持ちがよく、お湯の温度も決して高くはありません。でも、もう10分くらいは入っているので、知恵ちゃんの顔は真っ赤です。亜理紗ちゃんも温泉を十分に堪能したので、そろそろ出ようかと相談を始めます。


 「わあ……ちーちゃん。ぴかぴかだ」


 温泉から出た知恵ちゃんの体は、ラメをぬったように細かく輝いていました。手やタオルでふいてみますがキラキラは消えず、温泉の効能で肌がうるおったのだと解ります。2人が温泉から上がったのを見て、ラッコもお風呂から泳いで出てきました。


 「また、どこか行くのかな」

 「私、もう熱いから入れないよ……」


 体の熱くなってしまったので、知恵ちゃんは次のお風呂には入れないと言っています。でも、どんな温泉が他にあるのか気にはなるので、2人はラッコについて行ってみることにしました。


 「……泡が減ってきた」


 景色をおおっている泡が次第に消え、空気がクリアになっていくのが知恵ちゃんには感じられました。ラッコは岩が段々になっている道をはって進み、その先にある大きな洞窟へと入っていきます。日陰になった場所へ入ると、ザブンという音と共に、前を進んでいたラッコの姿が消えました。


 「……あれ?」


 どこに行ったのかと、亜理紗ちゃんはしゃがみ込んで日陰の先を見つめます。洞窟の中の暗い場所には波紋が広がっていて、そこにラッコの銀色の背中が浮かんできました。この洞窟にも温泉がたまっているようです。温泉に浮かんでいるラッコと、亜理紗ちゃんを交互に見て、知恵ちゃんはどうしようかと口にします。


 「……お風呂だ。入る?」

 「……これ、水だ」

 「……水?」

 「少しお湯の水だ」

 「少しお湯の水?」


 亜理紗ちゃんは水に手をつけて、その温度を確かめています。手の先から、体内に溜まっていた熱が水に流れて、じんわりと逃げていくのが感じられます。洞窟の中の水は温水プールくらいの温かさであり、深さは2人のヒザ上くらいしかありません。


 「入る」

 「入るの?」


 亜理紗ちゃんが水に入って、体育すわりで体をしずめます。知恵ちゃんも同じく、亜理紗ちゃんの横に座り込みました。水の冷たさが体にしみて、普段の体と同じ温度になるよう調節していきます。ラッコの周りを白い魚影が動き、知恵ちゃんたちの腰の辺りにもやってきました。


 「つめたくて、きもちいい」


 はーっと亜理紗ちゃんは白い息を吐き出し、最後の熱を体から出します。そうして上を見ると、洞窟へ差し込む光がぼやけています。気づけば、2人は亜理紗ちゃんの家のお風呂へと戻ってきていました。すっかり泡のなくなったお風呂は温度も下がって、ぬるま湯に変わっています。そこへ、亜理紗ちゃんのお母さんが顔を出します。


 「まだ入ってたの?アイスあるけど、上がったら食べる?」

 「……ちーちゃん。アイスだって。食べる?」

 「うん」

 「お母さん。シャワーのお湯、あっついの出して」

 「どうしたの?」

 「アイスを食べる準備」


 体を温めたあとに食べるアイスを思って、亜理紗ちゃんはお母さんにシャワーのお湯を出してくれるようお願いしました。冷たいアイスの為にも、体を十分に温めます。そして、泡のなくなったお風呂を見つめたあと、2人は浴室を出ていきました。

その94へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ