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その93の4『お風呂の話』 

 「……アリサちゃん。いるー?」

 「いるよー」


 もう浴室は泡だらけで、ピンクや青や緑といったカラフルな泡で視界がふさがれています。亜理紗ちゃんの姿が確認できないので、知恵ちゃんは声を出して位置を探っていました。知恵ちゃんの体にお湯の温かさが残っているものの、どんなに手を伸ばしてもバスタブのフチがつかめません。


 「アリサちゃん?そこにいるの?」

 「ちーちゃん。見つけた!」

 「ひえ……」


 向かい合って入浴していたはずの亜理紗ちゃんが、知恵ちゃんの小さな背中に触りました。亜理紗ちゃんは泡を息で吹き飛ばして、なんとか知恵ちゃんと顔をあわせます。辺りには熱気が漂っているので寒くはありませんが、裸でいるのも気恥ずかしく、2人は体を洗ううすいタオルで軽く体をかくしました。


 「……」


 近くにはシャンプーのボトルや、せっけんの乗った台もあります。ですが、どう見ても2人がいる場所は亜理紗ちゃんの家のお風呂場ではありません。裸足には平らな岩の質感が伝わっていて、障害物や突起などもなく、足の裏に優しくこすれています。

 

 少し待っていると、周囲にあった泡が消えて空や地面が見えてきました。亜理紗ちゃんはしゃがみ込んで、地面に映った自分の顔をのぞいています。

 

 「つるつるしてる」

 「……」


 地面はガラスのように透明な石でできており、くっきりと亜理紗ちゃんと知恵ちゃんの姿が反射しています。服は着ていないので、体の白さや細さを亜理紗ちゃんに見られて、より知恵ちゃんは顔を赤くしていました。そうして顔をうつむかせたところ、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんが船のオモチャを持ってきているのに気づきました。


 「オモチャ、持ってきたの?」

 「なにかあるかもしれないし、一応……」


 お風呂に浮かべるくらいしか使い道はなさそうですが、亜理紗ちゃんは念の為にオモチャを持って行きます。まだまだ周囲には泡が立ち込めているものの、2人が歩き出すと泡は道をゆずるようにして流れ始め、通路らしきものを開きました。


 「……!」


 泡でできた壁の向こうから、白い湯気がただよってきます。温かな熱を辿って歩いていったところ、そちらに真っ白なお湯のたまっている場所がありました。お湯は透明な岩でキレイに囲まれていて、それはまるで露天風呂のようです。


 「ちーちゃん。池だ!」

 「牛乳みたいだ」

 「牛乳の池かもしれない」


 亜理紗ちゃんは船のオモチャをお湯に浮かべて、時間を置いてから取り出しました。オモチャをひっくり返して、その様子をまじまじと確かめています。


 「……大丈夫。お風呂だ」

 「……なにが確認できたの?」

 「お湯が気持ちいい温かさだと、船の下側のところがピンクになる」


 船には温度を感知して色が変わる仕掛けがあり、それを使って亜理紗ちゃんは温度を調べたようです。でも、依然として怪しいお風呂であることに変わりはありません。不用心に入っていこうとする亜理紗ちゃんを知恵ちゃんは引き止めています。


 「アリサちゃん……危ないお風呂かもしれないし」

 「あぶないお風呂?」

 「入ったら体がかゆくなったりするかもしれない……」

 「……あぶないお風呂だ」


 改めて、お風呂に注意を向けます。お湯から上がる湯気と、あたりに浮いている泡の向こう側。お風呂の水面に何か、金色のものが浮いているのを2人は見つけました。


 「……」


 毛むくじゃらの金色のものが、次第にはっきりと見えてきます。お腹を上にして、ぷかぷかと浮かんでいるそれを見て、知恵ちゃんは目を細めながら言いました。


 「ら……ラッコだ」


その93の5へ続く

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