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その92『岩の話』 

 「ちーちゃん。なにこれ?」

 「石」


 今日の亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは、近所の公園へ遊びに来ていました。、中央の広い場所に大きな岩が置かれています。岩は非常に大きく、すべり台やジャングルジムが隠れるほどです。見たこともない岩が突然に現れた次第、2人は物体へと怪しみの視線を向けています。一応、それが前からあったかなかったか、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんに質問してみます。


 「……これ、前からあった?」

 「絶対にない」

 「だよね」


 このような存在感のある岩が公園にあったら、すでに学校でも噂になっているはずです。なのに、公園にいる子どもたちは岩に興味を示しませんし、誰もが意にも介さず公園前を素通りしていきます。


 岩の下の方は地面に埋まっていますが、形を見た限りではじゃがいもに似ています。それに気づいた知恵ちゃんは晩ごはんのことを考えており、その一方で亜理紗ちゃんは岩に細いひび割れがあるのを発見しました。


 「じゃがいもにヒビがある」

 「やっぱりじゃがいもっぽいよね」


 すでに亜理紗ちゃんの中では岩はじゃがいもと名づけられ、すると知恵ちゃんも段々とじゃがいものような気がしてきます。ヒビの奥をのぞいてみますが、中に何が見える訳でもありません。ただの岩です。


 「割れないかな」

 「あぶないから……石、置いて」

 「……石と岩って、なにが違うの?」

 「……大きさじゃない?」

 

 亜理紗ちゃんは岩を割ってみたいと言います。しかし、くずれてきても危ないので、知恵ちゃんは攻撃の手を止めました。それもそうだと、亜理紗ちゃんはハンマー代わりに手に持っていた石を地面へ下ろします。2人は岩から離れてベンチにすわると、遠目に岩の様子をながめ始めました。


 「今日は岩の観察をしよう」

 「楽しいかな……」


 亜理紗ちゃんは岩の観察をすると言いますが、公園に置かれている姿こそ違和感のある岩でも、見た目はなんの変哲もない岩です。動きもしませんし、特別なところは一切ありません。なので、知恵ちゃんの中でも面白くなる期待感がありません。


 「……」

 「……」


 数分の沈黙をはさんでも、やはり変化は起こりません。しいていえば、公園で駆け回っている子どもたちは岩へと激突しそうで、まったくぶつかりません。それが2人には不思議に見えています。知恵ちゃんはベンチに背をもたれながら言いました。


 「……ほんと何もないんじゃないの?」

 「何もないのかな?」

 「だって、誰も気にしてないし、さわってないし」

 「でも、ヒビとかあって怪しかったし……」


 近くで見ていた際、亜理紗ちゃんは岩をしつようになでていましたし、知恵ちゃんだって質感を聞かれれば言葉にできます。なのに、あまりにも他の人たちから興味を持たれていないので、本当は存在していない幻覚なのではないかと考えました。


 「……」


 もう一度、亜理紗ちゃんは岩へと近づいて、その表面に手を触れてみます。見た目と同じく、手触りもじゃがいもに似ています。そんな亜理紗ちゃんに気づいて、近くにいた小学校低学年くらいの女の子が声をかけてきました。


 「お姉ちゃん、なにしてんの?」

 「あのね。これ、岩のことなんだけど」

 「岩?」

 「うん……」

 「岩、ないよ!」

 「……え」

 「あははは!」

 

 おどけた動作で笑いながら、女の子は友達のところへ戻っていきました。ないと言われては亜理紗ちゃんも言及しようがありません。知恵ちゃんの横に座り直して、より目を細めて岩を凝視します。

 

 「岩、ないって」

 「……」

 「アリサちゃん?」

 「いや……」

 

 無意味に立ち上がってベンチの周りをうろうろした後、亜理紗ちゃんは再びベンチに腰を下ろします。あごを手でさすりながら、探偵さながらに言います。


 「……あれは何かある」

 「なんで……」


 これはあれだ。いつもの、他の人たちには見えないやつです。そうと解って、知恵ちゃんは1つ納得した様子で空をあおぎます。そして、いつ亜理紗ちゃんが諦めるのかと気にしつつ、観察対象を亜理紗ちゃんへと切り替えました。


 「ちーちゃん。あの岩には、きっと秘密があるんだ」

 「秘密って?」

 「それは秘密だから、私も知らない」


 やや目を閉じて思考を研ぎ澄ませた後、亜理紗ちゃんはスッと立ち上がり、遊んでいる女の子のところへ走っていきました。先程の子を探して呼び止めて、また岩の方を指さして何か聞いています。一言か二言、会話を済ませて戻ってきました。


 「……何か言ってた?」

 「やっぱり……あれは、何かある」


 何かあるとしか言わないという事は、何も教えてもらえなかったという事です。何がそこまで亜理紗ちゃんを突き動かすのか。それからも亜理紗ちゃんは岩の周りを歩いてみたり、ジャングルジムの上からのぞいてみたり、あれこれしていました。しかし、特に何も起こりません。


 「もしかすると、何もないのかもしれない……」

 「ないと思うけど……」


 陽が暮れてきました。その頃になって、やっと亜理紗ちゃんは弱音を吐き出します。むしろ、岩のどこに興味があるのか解らず、知恵ちゃんは率直に尋ねてみます。

 

 「アリサちゃん。なにがそんなに気になるの?」

 「……だって、あの子が岩ないって言うし、秘密があると思って」

 「……え?」

 「……?」


 お互いに浮かんだ疑問符を読み解き、読み解き、頭の中で一捻りします。


 「あ……」


 もう一度、顔を見合わせて、一回だけ岩の方を確認して、それから2人は見合って見合って、最後の答え合わせをしました。


 「岩……ない」

 「言わ……ない」

その93へ続く

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