その91の4『胸きゅんきゅんの話』
ピンクのキツネはしっぽをふりふり、目をうるうるさせて、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんに可愛さアピールをしています。そうしつつ、後ろ足では花壇の土を埋め直していて、自分が注意されたということには気づいている様子です。
「アリサちゃん。許す?」
「……むう」
キツネは見た目も小さく弱そうで、赤ちゃんみたいな容姿です。かわいそうなので知恵ちゃんは許してあげてもいいのではないかと考えているのですが、一方の亜理紗ちゃんは厳しい表情です。
「かわいいけど、ちーちゃんより胸キュンしない」
「……ん?」
「……ぴゅぴゅん?」
亜理紗ちゃんの言葉を受けると、ピンクのキツネはおびえたように鳴き声を出し、ギュッと体を丸めました。でも、体を震わせて見せながらも、かわいい上目遣いだけは欠かしません。そんなキツネの可愛さアピールが、いまいち亜理紗ちゃんの心に響かず、どんなに可愛くても胸キュンはしません。
「う~ん……あのね。ちーちゃん」
「……?」
「ずっと考えてたけど、これ見て」
知恵ちゃんの手にあるメモを指さし、亜理紗ちゃんが単語を1つずつ読み上げます。そうして、導き出された答えを結論として述べました。
「よわくて、かわいくて、ちいさくて、まもってあげたいなら、それは、ちーちゃんでしょ?」
「えっ……」
「ちーちゃんは、弱くて、かわいくて、小さくて、守ってあげたいでしょ」
「……いや」
亜理紗ちゃんの発言が頭に入らず、知恵ちゃんはメモを見返しています。数秒後、やっと理解したとばかり、亜理紗ちゃんへと問いかけました
「えっ!?私……よわくて、かわいくて、ちいさくて、まもってあげたいの?」
「そうだよ」
「……ちがう。私、胸キュンちがう」
「前に、さくピーも百合ちゃんも、ちーちゃんを守ってあげたいって言ってたし……りんりんなんて、連れて帰りたいって言ってたし」
窓ガラスに体を映して、知恵ちゃんは自分の姿を確認します。背は小さくて、細くて、弱そうな女の子がいます。それは知恵ちゃんです。まさか自分が胸キュンの対象にされているとは思ってもみず、知恵ちゃんは顔を赤らめながら戻ってきました。
「私、みんなに、そんなふうに思われてたんだ……」
「ちーちゃんが本物の胸キュンだから、この子にも本物の胸キュンを見せてあげたい」
自分が胸キュン対象である事実こそ受け入れましたが、亜理紗ちゃんの理屈には納得していません。でも、このままではキツネは亜理紗ちゃんに逃がしてもらえないので、仕方なく亜理紗ちゃんが言う事に従います。
「今から、ちーちゃんとキツネさんで、ごめんなさい対決をするよ」
「ごめんなさい対決?」
「ごめんなさいして、胸キュンだった方が勝ち」
さらに亜理紗ちゃんが無茶振りをするので、ますます知恵ちゃんは恥ずかしそうにしています。その前に、知恵ちゃんは勝負に勝ったらどうなるのかとを聞いておくようです。
「えっと……この子が勝ったら、どうなるの?」
「この子が許してもらえる」
「……私が勝ったら?」
「この子が許してもらえる」
無益な戦いなのだと知りつつも、亜理紗ちゃんは心の中ではキツネを許しているのだということを知恵ちゃんは理解しました。一方、ピンクのキツネも亜理紗ちゃんと知恵ちゃんに敵意がないのを知って、やや調子に乗った様子でハァハァと舌を出しています。
「まず、キツネさん」
「……ぴゅん?」
頭を低くして、ごしごししながら、キツネさんは何度もおじぎをしています。その様は、とても可愛らしく、知恵ちゃんはキツネさんを手で指しながら言います。
「胸キュンだ……キツネさんの勝ちです」
「かわいいけど……次、ちーちゃん。ごめんなさいしてちょうだい」
ピンクのキツネさんの仕草に亜理紗ちゃんも笑顔なのですが、一方的に勝負は終わらせません。知恵ちゃんにもお願いします。
「……」
何も悪いことをしていないのに、なぜ謝罪させられるのか。知恵ちゃんははずかしさのあまり顔を真っ赤にしながら、おどおどと亜理紗ちゃんの前に立ちます。両手をあわせて、お願いをするようにして、上目遣いに声をもらしました。
「……ごめんね」
「……やっぱり、ちーちゃんだな。強い」
「どういうことなの……」
満足そうな亜理紗ちゃんの様子に、どう反応すればいいのかと知恵ちゃんは悩んでいます。そんな知恵ちゃんの横に来て、ピンクのキツネさんも知恵ちゃんのマネを始めました。
「ぴゅぴゅん……ぴゅぴゅん……」
両前足をあわせて、がんばってごめんなさいをしています。キツネさんにも、知恵ちゃんが持つ胸キュンの力が伝わったので、これで勝負は終わりです。知恵ちゃんの勝ちとはなりましたが、まだ亜理紗ちゃんは知恵ちゃんのごめんなさいが忘れられません。
「ちーちゃん……さっきの、もう1回やって」
「……やだ」
「アメあげるから……」
「いらない……」
その91の5へ続く






