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その91の3『胸きゅんきゅんの話』 

 「ちーちゃん。ねぇ。今、どんな気持ち?」

 「やさしさにつつまれた」

 「胸キュンだ」


 テレビを見ること1時間。動物の赤ちゃんから胸キュンを学んだ知恵ちゃんは、忘れないようにと持ってきたメモへ胸キュンの要素を書き出していきます。


 「忘れないようにメモだ。えっと……まずは」

 「ちーちゃんって変にマメだ……」


 『かわいい』『よわそう』『小さい』『まもってあげたい』などとメモに文字を連ねます。それを亜理紗ちゃんはうなずきながら横で見ていたのですが、そのままスッと視線を知恵ちゃんの方へと移動させました。


 「……な……なに?」

 「え?なんでもないよ」

 

 視線を察知して知恵ちゃんは尋ねますが、亜理紗ちゃんは存ぜぬ様子でとぼけています。亜理紗ちゃんは両腕を組んで何か考えながら、知恵ちゃんのメモを見返しています。そして、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんより、やや背が小さくて、しいて言えばか弱そうです。そんな知恵ちゃんは胸キュンについて解ってきたようで、もっと別の胸キュンがないかと部屋を見回しています。


 「小さくて弱くてかわいいもの、どこかにないかな……」

 「外に探しに行く?」

 「うん」


 家の中に胸キュンはないと見て、2人は外へと探しに行く事にしました。いつもと逆で、今日は亜理紗ちゃんが後ろを歩いて、先頭の知恵ちゃんがメモを見つつも街を歩いていきます。


 「あっ……ちーちゃん。アリちゃんがいたよ」

 「小さい……でも、虫だから」


 道路に小さなアリがいます。とても小さいですが、知恵ちゃんは虫は苦手なのでスルーします。今度は電信柱の近くにスズメがいるのを見つけました。


 「ちーちゃん。すずめは?」

 「すずめは、まちがいない。胸キュン」


 小鳥は胸キュンポイントが高いと判定し、知恵ちゃんはメモに『すずめ』と書きます。その後も街の中に隠された胸キュンを探求し、亜理紗ちゃんは次々と胸キュンするものを見つけていきます。でも、知恵ちゃんの胸キュンの基準は難しく、胸キュンだったり胸キュンでなかったりします。


 「ちーちゃんの胸キュンはスズメと、たんぽぽと……あれ?五郎丸は?」

 「五郎丸は、ちょっと強そうだから入れてない」


 大きな犬は強そうなので、残念ながら五郎丸は落選となりました。結局、家に帰ってきた時に知恵ちゃんのメモに書いてあった名前は、スズメとタンポポだけです。胸キュンを探してウロウロしている知恵ちゃんを、ずっと亜理紗ちゃんは後ろから見ていました。


 「……?」


 家の横にある庭から、ごそごそと土のえぐれるような音がします。それに気づき、そっと亜理紗ちゃんは身を隠しながらのぞきました。


 「……アリサちゃん。なにかいるの?」

 「……うん。ピンクのなんかがいる」


 家の庭には、ピンク色の生き物が見えます。それは庭の土を掘り返しており、2人が後ろに立っても気づかない風で、一生懸命に土へと頭を突っ込んでいます。そのおしりはピンク色のもこもこした毛でおおわれていて、短いしっぽをぴょこぴょこと振っています。


 「……なにしてるの?」

 「……!」


 亜理紗ちゃんの声を受け、大きな2つの目が2人へと向けられました。その姿はキツネのようですが、土気に汚れた体毛はピンク色で、ヌイグルミに似た姿をしていました。土を掘られると庭がボコボコになってしまうので、亜理紗ちゃんはキツネに注意しています。


 「ダメだよ。ほったら」

 「……」

 

 ピンクのキツネは大きな瞳をうるうるとさせて、かなしそうに亜理紗ちゃんを見上げています。キツネは白いお腹をおおっぴろげて、降参のポーズを2人に見せつけました。


 「アリサちゃん……なにこれ?」

 「反省のポーズかな?」


 これでは満足してもらえないと知り、今度はうつぶせに頭を下げて、上目遣いに2人を見上げます。しっぽも頑張って振っています。それを見て、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんはキツネの考えを察しました。


 「ちーちゃん……この子、あれだ」

 「かわいさで許してもらおうとしてる……」



その91の4へ続く

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