その14の2『嵐の話』
夜6時には知恵ちゃんのお父さんも帰宅して、思いつく限りの防災対策を図っていました。その最中、停電になれば溶けてしまうと理由をつけて、お父さんと知恵ちゃんは冷凍庫のアイスを食べていました。
「カップのアイスは凍らせれば、また食べれるから。棒つきのアイスを食べてしまおう」
「お父さん……そうなの?」
お父さんの豆知識に知恵ちゃんは疑問を見せながらも、緑色をしたソーダ味のアイスを黙々とかじっていました。その後、家族3人で早めに夕食を済ませた頃、家の外ではタンタンと屋根を叩く音が聞こえ始めました。テレビのニュース番組を見ながら、お母さんとお父さんが相談を始めます。
「お父さん。窓は大丈夫?」
「うちは強化ガラスだし、フィルムも貼ってあるから。懐中電灯は持ってきた」
知恵ちゃんが暗い窓の外へ目を向けると、空を見上げている亜理紗ちゃんの姿が隣の家の窓に見えました。そんな亜理紗ちゃんはオモチャのトランシーバーを持っていて、それに気づいた知恵ちゃんも自分の部屋から同じトランシーバーを持ってきました。
「アリサちゃん。聞こえる?」
『……あ……ちーちゃん』
知恵ちゃんがトランシーバーのスイッチを入れてみると、ちょっとだけ遠い音声で亜理紗ちゃんの声が聞こえてきます。庭を挟んでいて距離が少し遠いので、次第に強まる雨音も相まって声は鮮明には聞こえませんでした。
風が雨を吹き飛ばす音が、窓の外から聞こえてきます。ただ、窓は立てつけがよくてガタガタとは鳴らず、どこか家の外だけが別の世界になったように荒れています。テレビでは天気予報士の人が日本地図を指さしながら、一時間おきの台風の通過予想を丁寧に説明しています。
「知恵。こっちおいで」
お父さんに呼ばれ、知恵ちゃんはソファの真ん中に座り込みます。台風は夜の内に通過する予報が出ており、夜9時の現在が風速雨量共に最も激しいとされていました。もはや、窓を流れる雨が滝の勢いであり、曇りガラスにも似て家の外が見えません。さすがの亜理紗ちゃんも雷が激しくなり始めたことで観測を諦めたのか、電話の弱まっているトランシーバーにメッセージを残しました。
『台風……目……見れない……撤退……』
「了解……」
通信が途絶え、知恵ちゃんもトランシーバーのスイッチを切りました。お父さんが心配していた停電も特になく、そろそろ知恵ちゃんは寝むたくなる時間です。知恵ちゃんがソファの上でトランシーバーを持ったまま、うとうととしています。すると、どこからか知らない声が聞こえてきました。
『……』
何と言ったのかは聞き取れませんでしたが、その声を聞いて知恵ちゃんは半分しか開いていなかった目を大きく開きました。そして、両隣に座っているお父さんとお母さんに尋ねます。
「……なにか言った?」
「……お父さんは何も言ってないよ」
「知恵。寝るなら歯みがきしてきなさい」
そうお母さんに言われ、知恵ちゃんは不思議そうにしながらトランシーバーを持って立ち上がりました。
その14の3へ続く






