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その89の1『泡の話』

 「今日、うちでシャボン玉やろう」

 「いいよ」


 帰ったらシャボン玉を飛ばして遊ぼうと、学校の帰り道で亜理紗ちゃんは知恵ちゃんを誘いました。亜理紗ちゃんのお母さんに頼めば、洗剤をうすめてシャボン玉の液を作ってくれます。それとストローを用意して、2人は亜理紗ちゃんの家の庭で遊びます。


 「アリサ。シャボン液、飲まないようにね」

 「うん」


 亜理紗ちゃんと知恵ちゃんに注意だけして、お母さんは家に入っていきます。知恵ちゃんはストローにシャボン液をつけ、そっと息を吹いてみます。ストローの先から、ゆるやかにシャボン玉がふくらみます。でも飛ばずに割れてしまいました。


 「飛ばない……」

 「もっと優しく吹くのがコツのはず」


 亜理紗ちゃんのシャボン玉は大きくふくらみ、ストローから外れて飛び立ちます。大きなシャボン玉は2人の目の前をふわふわ浮いて、庭の芝生に落ちると草の先に引っ付きました。知恵ちゃんは大きなシャボン玉を作るのは諦めて、小さなシャボン玉をたくさん飛ばしていました。

 

 「あっ。そうだ」


 亜理紗ちゃんは物置の横からバケツを持ってきて、それに少しだけ水をはりました。


 「……どうしたの?」

 「これにシャボン玉をためよう」


 亜理紗ちゃんが大きなシャボン玉を1つ、また1つとバケツに入れていきます。ただ、シャボン玉は重なると潰れて割れてしまったり、小さな泡に分裂したりします。これに知恵ちゃんは見覚えを探ります。


 「台所の汚れたお皿を入れるやつだ……」

 「そう聞いたら、あんまりキレイじゃない気がしてきた……」


 お皿を水につけるオケを思い出してしまい、すると虹色に輝くシャボン玉も、あまりキレイには感じられません。やっぱり普通に遊ぶ方がいいと考え直して、2人は庭にシャボン玉をまき始めました。硬い場所に落ちるとシャボン玉は簡単に割れてしまいますが、草の上に乗るとくっついて花のようになります。


 「ちーちゃん。ほら、シャボン玉のお花だ」

 

 亜理紗ちゃんは花壇のある方へと移動し、大きなシャボン玉を作ってお花の草に乗せてみます。虹色のシャボン玉を通して、お花が大きく映っています。シャボン玉の表面はにじんでいて、のぞくと少しずつ景色を移り変えていました。


 亜理紗ちゃんの作ったシャボン玉は大きく、お花や葉っぱにくっついたまま揺れています。それに引き換え、知恵ちゃんの作ったシャボン玉は小さく、つぶつぶと葉っぱについています。


 「ちーちゃんのシャボン玉さあ……」

 「……?」

 「虫の卵みたいじゃない?」

 「やめて……」


 そう言われてみると、段々と知恵ちゃんにも葉っぱについた虫の卵に見えてきました。亜理紗ちゃんのシャボン玉は風に吹かれて消えてしまいます。知恵ちゃんの作った小さなシャボン玉も大半は消えてしまうのですが、その中の1つだけが、なかなか葉っぱから消えてなくなりません。


 「……これ、なかなか消えない。なんで?」

 「なんでだろ」


 亜理紗ちゃんがストローの先で泡をつついてみます。それでも、やわらかく形を変えながら、シャボン玉は割れずにいます。これはおかしいと、亜理紗ちゃんはシャボン玉に手で触ってみました。すると、それはコロンと手の中に落ちました。


 「……あれ?」


 割れないシャボン玉は、まるで小さなビー玉です。これはなんなのかとばかり、亜理紗ちゃんはシャボン玉のようなものを手の中で転がしながら、知恵ちゃんと一緒にながめていました。


 「ちーちゃん。これって……」

 「……?」

 「虫の卵かな……」


 そう聞いて、キレイだと思いながら見ていた知恵ちゃんは、静かに3歩だけ後ずさりました。

その89の2へ続く

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