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その87の3『お買い物の話』

 「まだなにか買うのかな?」


 町の風景を見回しながら、亜理紗ちゃんが言います。あれから少し歩いて、にゃむにゃむさんは屋根のある通りへとやってきていました。天井の位置は亜理紗ちゃんの背の高さギリギリで、見上げれば素材の木目が間近です。でも、背の低い知恵ちゃんには屈まずとも問題のない高さでした。道を進んでいくにつれて、通路にはタルのようなものが増えていきます。


 「にゃむにゃむ……」


 街並みの中にタルの形をしたお店が建っており、その前で、にゃむにゃむさんは荷車を止めました。何を売っているお店なのかは、外から見ても知恵ちゃんたちには解りません。看板に書いてある文字も、ふにゃふにゃとした記号のようなものでいて、読み解くことはできませんでした。


 にゃむにゃむさんが貝がらのようなものを何枚か荷台から取り出し、タルの形の建物へと入っていきます。亜理紗ちゃんは建物に何かの香りがついているのに気づき、顔を近づけてかいでみました。すぐに顔をムッとさせて、細くした目で知恵ちゃんを見ました。


 「ちーちゃん……にがいにおいがする」

 「にがいにおいってなんなの……」


 亜理紗ちゃんの言う匂いの想像がつかず、知恵ちゃんも建物から漂っているにおいを確かめます。建物から顔を遠ざけて、知恵ちゃんは感想を述べました。


 「にがいにおいがする……」

 「なんのにおいだろう……」


 あまりなじみのない匂いに戸惑いつつも、何度も何度も顔を近づけて正体を探ります。どこか果物の芳醇さも感じられますし、同時に重みのある刺激も鼻につきます。発酵した酸味、糖類の甘み。それらが混ぜ合わされ、香りとなって建物の壁に染みこんでいます。


 「あ……にゃむにゃむさんだ」


 にゃむにゃむさんが戻ってきたのを見て、亜理紗ちゃんが少し足を避けます。その手には貝殻はなく、どうやら買い物を終えた様子です。遅ればせ、体の大きなネコさんが2人で力をあわせて、大きなタルを持ち出してきました。

 

 「にゃっにゃっにゃっ……ふう」


 筋肉質な体をした屈強なネコさんたちの掛け声と共に、重そうなタルがズシリと荷車に乗せられました。フタがされていて中身は見えませんが、ちゃぷちゃぷと水の揺れる音がします。それを聞いて、知恵ちゃんはタルの中身を予想します。


 「飲み物かな?」

 「ジュースかも。重そう」


 重量感のあるタルが乗せられ、荷車の中は一気に充実してきました。乗っているお魚も、ちょっと体を寄せてスミに収まっています。ミシミシときしんでいる荷車に反して、にゃむにゃむさんはせまい歩幅ながらも、休まずに街を歩いていきます。煙突のある家が増えてくると、今度は香ばしい匂いが風に乗って届きます。


 「ちーちゃん。お店にパンがたくさんあるよ」

 「これ、パンなのかな……」


 各店のカウンターには、亜理紗ちゃんの手のひらに収まるくらいの小さな焼き菓子が置かれ、トッピングとしてナッツや果物が乗せてありました。見た目はパンのようで、クッキーのようで、ドーナッツにも見えます。ちょっと硬そうな焼き菓子です。


 「にゃむにゃむ……」


 ここでも、にゃむにゃむさんは5個も6個も焼き菓子を買うので、もう荷車は食べ物でいっぱいです。こんなに買って、どうするのか。亜理紗ちゃんは町の向こうにある景色を見つめました。


 「遠くまでいくのかな?」

 「旅の準備かもしれない……」


 屋根のない場所から町の外を見通すと、地平線の向こうまで続く森と草原がありました。そこを超えるには、きっと何日もかかるだろう。そう考え、また2人は荷車の中へと目を戻します。気づくと、またにゃむにゃむさんは食べ物を買っていました。


 「まだ足りないんだ……」

 「どこまで行くんだろう……」


 そうこうしていると、にゃむにゃむさんはすぐ隣のお店で、さらに焼き菓子を買い込みました。ちょっと荷車から落ちそうになっている焼き菓子を正しつつも、亜理紗ちゃんは頭に浮かんだ疑問を口にしました。


 「これも、どこかに届けに行くのかな?」

 「くいしんぼうなのかもしれない……」

 「……そっか。食べながら歩けば、どんどん軽くなって楽になる」

 「体に入ってるから同じだと思うの……」


その87の4へ続く

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