その87の1『お買い物の話』
カタカタカタと、何かの回る音が聞こえます。どこから音が聞こえるのか、耳をすませて亜理紗ちゃんは音の出どころを探しています。
「……自転車かな?」
「ちょっと違う気もする」
駄菓子屋さんに行った帰り道なので、亜理紗ちゃんはヒモのついたアメを口に入れています。知恵ちゃんはウェハースを買ったので、おまけでついてきたピカピカ光るシールを手に持っていました。カタカタという音は自転車にしては小さく、音の間隔も広いのでゆっくりした動きなのが解ります。
「……あれかな?」
音の正体を探し、亜理紗ちゃんは家と家の間にあるせまい道をのぞいてみます。そこに動いているものがいるのを発見し、指をさして知恵ちゃんにも教えました。じめッとした暗い道へ知恵ちゃんがに目を向けると、そこには小さな荷車を引いている、二足歩行の生き物の姿が見えました。
「にゃむにゃむにゃむ……」
二輪のついた荷車を引いているのは、亜理紗ちゃんたちのヒザ下くらいしか背のない小さな生き物です。暗くて姿はよく見えませんが、にゃむにゃむと弱々しい声を出しながら歩いています。荷車にはピカピカと光るものが乗っていて、それを運んでいく様子が2人にも見て取れました。
「行ってみよう」
「う……うん」
亜理紗ちゃんが荷車を追いかけ、知恵ちゃんもついて行きます。足元は砂利道で、自動車の通れるような道ではありません。転ばないように気をつけながら道を進み、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは荷車を引いている生き物に追いつきました。
「にゃむにゃむにゃむ……」
二輪を引いているのは白髪交じりの毛色をしたネコのおじいさんで、葉っぱでできた服や帽子を身につけていました。荷車にはお魚が乗っています。お魚は骨まで透けて見えており、体はゼリーのようにプルプルとしていました。だらりと荷車の中でくつろいでおり、腰を折り曲げて座っています。そのお魚を亜理紗ちゃんは、ネコのおじいさんのお弁当だと考えています。
「お魚を食べるのかな」
「おいしくなさそうだけど……」
知恵ちゃんから見るとお魚は美味しそうじゃありませんでしたし、生きたまま運ばれているので知恵ちゃんや亜理紗ちゃんを見上げています。お魚にはまぶたがないので、表情は全くありません。
「……?」
そのまま歩いていくと次第に暗い道を抜け、明るい木漏れ日のような光が差し込みました。ザワザワ、カタカタ、ガヤガヤ、トコトコと、色々な音が聞こえてきます。広い場所へ出たのを知り、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは足を止めました。
「わあ、ちーちゃん。町に出たよ」
路地を抜けた先には木でできた小さな家や、屋台のようなものが道をはさんで続いていました。ネコのおじいさんに似た姿の人たちが大勢いて、2人のヒザ下を往来しています。そうしてネコたちの町に到着すると、荷車に乗っていたお魚は尾びれを使って立ち上がり、自分で荷車を降りていきました。
「……」
お魚はネコのおじいさんにカクッと頭を下げ、そのまま尾びれを使って歩いて近くの湖へと飛び込みました。おべんとうではなく、お魚は乗せてきてもらったお客さんだったのだと亜理紗ちゃんは気づきます。
「ネコさんタクシーだったんだ」
「乗せてきてあげたんだ」
お魚を荷車から降ろし、ネコのおじいさんは町を進んでいきます。亜理紗ちゃんも知恵ちゃんも何度か不思議な世界に迷い込んだことはありましたが、こんなににぎわっている町に来たのは初めてです。通行人のネコさんたちは道に大勢いるのですが、どのネコさんも2人の足をさけてうまく歩いていきます。
「くすぐったい……」
すれちがうネコさんの毛が足をくすぐるのに耐えながら、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんの後ろを歩いていきます。その先で、ネコのおじいさんが荷車を止めました。
「にゃむにゃむにゃむ……」
露店には果物や石など様々なものが置いてあり、おじいさんは赤い果実を手に取りました。お店に立っているトラがらの毛のネコさんが、荷車の中にある葉っぱへと手を向けて何か言い出します。
「じんが、はっぽ、ぴぴっぴなんなん。にゃむにゃむ!」
「にゃむにゃむ……」
会話をしているようですが、知恵ちゃんたちには何を言っているのか解りません。ネコの言葉で交渉が続き、最終的におじいさんの葉っぱと、赤い果実が交換になりました。
「もんちゅ、ろんろ、からった。にゃむにゃむ!」
「にゃむにゃむ……」
おじいさんはペコリと頭を下げて、露店の店主とお別れしました。亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは交渉の一部始終を見守っていたいましたが、おじいさんは最後まで『にゃむにゃむ』としか言いませんでした。
「ちーちゃん。にゃむにゃむってなんなの?」
「さあ……」
「あの……にゃむにゃむ」
試しに亜理紗ちゃんは露店の店主へ声をかけてみます。すると、店主はおじいさんの方を手で指し示しました。それを見て、亜理紗ちゃんは『にゃむにゃむ』の意味に察しがつきます。
「あ、おじいさんの名前だ」
「にゃむにゃむさんなんだ」
『にゃむにゃむ』が、おじいさんの名前なのだと判明します。しかし、おじいさんが『にゃむにゃむさん』だとすると、会話の中で自己紹介しかしていなかったことにもなってしまうので、どんな会話をしていたのか2人は余計に解らなくなりました。
その87の2へ続く






