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その86の2『やるきの話』

 「まずは研究をするよ」

 「研究?」

 「漢字の形をおぼえる」


 亜理紗ちゃんはテストに出そうな漢字を教科書やプリントから探し出し、パッと漢字のドリルを開きました。キチンとエンピツを削ってから、ドリルのお手本通りに一画一画を丁寧になぞります。知恵ちゃんも亜理紗ちゃんと同じページを開き、マネして同じ漢字を書いていきます。


 「ピッとしたとこと、シュッとしたとこと、点のところをおぼえて、次はノートに書く」

 「書き順がなんか違くない?」

 「書き順で書くと、なんか上手く書けない……」


 はねや止めは重視しますが、亜理紗ちゃんは書き順は気にしません。それでも、不思議とキレイに漢字は書けています。知恵ちゃんも書き順は正しくしつつも、ノートを広げて漢字を書く練習を始めました。


 『島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島島』


 「アリサちゃん……どこまで書くの?」

 「ノートの5ページ分くらい」


 亜理紗ちゃんは『島』という漢字の形に納得がいくまで、延々とノートに同じ漢字を書き続けます。たまに手癖で『鳥』と書いてしまいますが、その時はちゃんと『島』になおします。しばらくは知恵ちゃんも亜理紗ちゃんの漢字練習につきあっていましたが、『島』の練習がノート6ページを超えたあたりで力尽きました。


 「もう……もうおぼえたでしょ?」

 「う~ん……おぼえたけど……そうだ!島の下にある山のとこを少し、左に出して書くとキレイ」


 もはや亜理紗ちゃんの目的は漢字をおぼえることではなく、漢字をキレイに書く事に方向転換していて、その点に関しては残念ながらテストで評価されません。知恵ちゃんは亜理紗ちゃんのノートをめくって、白紙のページに『島』の文字を書くよう出題しました。


 「何も見ないで書いて」

 「はい」

 「じゃあ、次の漢字」

 「え……もういいの?」


 何も見ずに『島』の文字を書けたので、次の漢字に取り掛かります。漢字のドリルのお手本をなぞりながらも、亜理紗ちゃんは手を止めて考えてしまいます。


 「鳥と島って、あんまり似てないのに、なんで漢字は似てるんだろう……」

 「あんまりっていうか、まったく似てないと思うけど……」

 「不思議だ……」

 「いいから。次、『悪』ね」


 知恵ちゃんのペースにあわせて勉強していったところ、テストに出そうな漢字のほとんどを1時間で勉強し終わりました。最後に復習までして、全て頭に入っていることを確認します。


 「ちーちゃん。もう終わった……信じられない」

 「アリサちゃんは、勉強に寄り道が多いと思うの……」

 「……」


 あれだけ面倒だった漢字の勉強が、亜理紗ちゃんの想定以上に早く終わってしまいました。ノートも2冊も持ってきたのに、1冊目の3分の1も使用していません。すると、亜理紗ちゃんは考え事をするようにして、楽に姿勢を崩しました。


 「……早かったけど、ちーちゃんと一緒じゃないと、これはできない」

 「そうなの?」

 「……もうちょっと書いていい?」

 「やるきなかったんじゃなかったの……?」


 やっぱり、たくさん漢字を書かないと気が済まないようで、亜理紗ちゃんは再びノートに漢字を並べ始めました。やるべきことが終わっている分、純粋に漢字を書くことに専念できて、エンピツを紙にうちつける音も楽しげです。


 「ちーちゃん。私、この漢字、かっこいいから好き」

 「どれ?」


 アリサちゃんはノートいっぱいに漢字を書きつづり、それを知恵ちゃんに見せました。


 『悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪』


 「……」


 わるそうな漢字がノートいっぱいに書かれていて、見た瞬間にも知恵ちゃんは絶句しました。なお、次の日のテストは2人とも、無事に100点を取ることができました。 


その86の3へ続く

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