表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
291/367

その85の2『五七五の話』

 「さとうさん。そんなにてんき。よくないの」

 「……まあ、うん」


 凛ちゃんの呼んだ句が事実と異なっていたので、知恵ちゃんは五七五を詠みつつも、みんなの判断をあおぎます。凛ちゃんから見ても窓の外は雲が多く、天気がいいとは言い切れません。ですが、先に良い天気だと言い出したのは亜理紗ちゃんなので、責任問題は亜理紗ちゃんへと預けられました。


 「でも、このくらいが熱くなくていいと思います」

 「たしかに」


 亜理紗ちゃんの言い訳が理にかなっていたので、今日はいい天気ということに決まりました。その問答を見て、桜ちゃんが冷やかすように言います。


 「知恵。アリサには甘い」

 「そうよ!チエきち、私にはキビシイのに!」

 「そんなことない……」


 凛ちゃんからも苦情が入りましたが、知恵ちゃんはキビシクしている自覚はありません。ただ少し、凛ちゃんのことをからみづらいと思っているだけなのです。知恵ちゃんまで五七五ゲームの順番が終わったので、また1番手の亜理紗ちゃんから始めます。


 「ちいちゃん。あまいたべもの。だいすきだ」

 「そういえば、知恵は甘いものばっかり食べてるイメージ。太らないけど」

 「そんなことない……」

 

 桜ちゃんの思い描くイメージについて否定はしますが、甘いものが好きな点はなんとも言いません。普段の口数が少ない分、みんなは知恵ちゃんについて勝手に想像するしかなく、五七五ゲームは自然な流れで、知恵ちゃんのイメージを語る大会になってしまいます。


 「ちえちゃん。いつもねむそう。がんばって」

 「ちえはかみ。さらさらしてる。いとみたい」


 百合ちゃんから見ると知恵ちゃんは眠そうな子ですし、桜ちゃんは知恵ちゃんの細い髪がうらやましいのです。知恵ちゃんについて語る遊びが始まったのに気づくと、亜理紗ちゃんは落ち着かなそうに、その場で足踏みを始めました。


 「はい。次、りんりん。はい」

 「な……急かさないでよね!えっと。ちえきちは。わたしばっかり。きびしすぎ」

 「さとうさん……べつにきびしく。してないけど」

 「ちーちゃん。字余りだ」


 知恵ちゃんが普通に反論したところ、五七五として亜理紗ちゃんに認定されました。字余りという聞きなれない言葉が出たので、どういう意味なのか知恵ちゃんは質問します。


 「字余り?」

 「文字が多かった時は、字余りっていえば許される」

 「どういうルールなの……」

 「ちょっと!そういうルールは、先に言ってよね!」

 「忘れてたの。りんりん、ごめんね」


 ただ、字余りが許されるとなると、もう五七五ゲームは五七五ゲームではありません。ただ知恵ちゃん談義をする為だけの場です。やっと自分の番が来たので、亜理紗ちゃんは抑えていた気持ちを口に出しました。


 「ちいちゃん。すごいやさしい。あとかわいい。字余り」

 「そんなこと。ぜんぜんないし。はずかしい……」

 「あとね……たよれるし。かっこいいし。わたしすき」

 「いや……」

 「これからも。ずっとなかよく。してほしい。字余り」

 「……」


 知恵ちゃんに伝えたいことが多すぎて、亜理紗ちゃんの番が終わりません。そうこうしていると、亜理紗ちゃんのクラスの友達が後ろから声をかけてきました。


 「アリサちゃん。次、教室移動するから、早くした方がいいよ」

 「そっか……ううん」


 まだ言いたい事はたくあんあるようですが、もう教室へ戻らないと授業の準備に遅れてしまいます。しぶしぶ、亜理紗ちゃんはみんなに手を振ってお別れします。


 「ちーちゃん。また帰りにやろうね」

 「え……」


 まだ他にも自分に良いところがあるのかと、知恵ちゃん本人がビックリしています。亜理紗ちゃんが別の教室へ入っていくのを見届けてから、桜ちゃんたちも自分の教室へと戻り始めました。ゲームの勝敗は決まりませんでしたが、みんなは降参とばかり口をそろえて知恵ちゃんに言います。


 「ダメだ。このゲームは勝てない」

 「ね~」

 「わ……私だって、チエきちのいいところ知ってるのに……ぬぬ」


 そよ風のように現れ、嵐のように去っていった亜理紗ちゃんのいた場所を、知恵ちゃんはじっと見つめます。五七五ゲームがゲームとして機能していたのかを気にしつつも、それはともかく顔を真っ赤にしながら、はずかしそうに自分の席へと戻っていきました。



その86へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ