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その13の4『料理の話』

 影たちは交代交代で水たまりをかき混ぜていて、休憩をとっている影は壁際で待機していたり、何かを探しに穴の外へと出ていったりしています。何ができあがるのかと亜理紗ちゃんと知恵ちゃんが後ろから見物している中、木の実か岩か判別のつかない物体を持った影が穴の入り口からやってきました。


 「ちーちゃん。かぼちゃみたいな石だ」

 「石みたいなカボチャかもしれない……」

 

 その岩を持った影は洞窟の奥にある床が石でできている場所まで進んでいくと、カボチャのような岩を持ち上げては落として転がし、持ち上げては転がし、それを何度も繰り返し始めました。何をしているのかと二人は見下ろしていましたが、その中で亜理紗ちゃんが一つ予想を立てました。


 「……割りたいの?」

 「そっか。割って水たまりに入れるんだ」

 「割ってあげよう」

 「……気をつけて」


 そう言うと、亜理紗ちゃんは影の代わりに石を持ち上げて、かたそうな場所を探して落下させました。でも、岩の表面についているカケラがボロボロと取れるだけで、小さなヒビの一つも入りません。3回だけ岩を投げてみましたが、どうしても割れずに亜理紗ちゃんは岩を影に返しました。


 「ダメだ。割れない」

 「かたそうだもんね」


 その後も、影は交代しながら岩を落とす作業を繰り返していたのですが、岩は表面がボロボロになるだけで一向に割れる気配がありません。すると、しゃがみこんで影たちの様子を見ていた亜理紗ちゃんが、ふと知恵ちゃんに岩を投げてみるように言いました。


 「ちーちゃんがやったら、割れるかもしれない」

 「アリサちゃんが割れないのに割れないよ……」

 「試しに、やってみて」


 そうお願いされ、知恵ちゃんは仕方なく岩を持ち上げました。岩は柿の実くらいの大きさで、両手で持てば知恵ちゃんにも重くはありません。それを硬い床に放ってみると、ゴロンと転がった先で何秒か落ち着き、岩は真ん中から二つに割れました。


 「割れた……」

 「おお……ちーちゃんが割った」


 割れた岩の中は金色に光っていて、さらさらとした宝石のような粒がこぼれ出しています。割れた岩を影たちは水たまりへと運び、岩の中身をポチャポチャと流し込みます。次第に光の粒は溶けて、水たまりはコンソメスープのような色へと変わりました。


 水たまりの中で完成したものはカレーにも味噌汁にも見えないものでしたが、それを影たちは木の実を削ってつくった小さな器に取り分けます。あわせて、取り分けたものは亜理紗ちゃんと知恵ちゃんの前にも差し出されました。


 「ちーちゃん……飲む?」

 「飲めないから返してあげて……」


 知恵ちゃんと亜理紗ちゃんがお椀をゆずると、お椀の中身をすすっていた影たちは2人の分も食べ始めました。水たまりの中が全てなくなり、影たちは洞窟の外へと並んで移動を始めます。それを追って、2人も出口へ続く坂を上って家の庭へと出ます。


 「……あれ?ちーちゃん。影は?」

 「……もういない」


 太陽が山の向こうへ沈むとともに、影たちは姿を消してしまいました。同時に、2人が出てきた穴は消えてなくなっていて、今はズレた石のタイルだけが残っています。服を土だらけにしている知恵ちゃんと亜理紗ちゃんを見つけ、亜理紗ちゃんのお母さんが窓を開けて声をかけました。


 「2人して、何してるの?」

 「あ、お母さん」

 「カステラあるから、あとで知恵ちゃんも食べにおいで」

 「はい……」


 それだけ伝えると、亜理紗ちゃんのお母さんは窓を閉めてリビングへと戻っていきました。知恵ちゃんは亜理紗ちゃんと協力して、ズレた石のタイルをなおし始めました。


 「アリサちゃん……ケーキがあるって言ってなかった?」

 「ケーキって言った」

 「カステラってケーキなの?」

 「そうだよ」

 「……そうかなぁ」


                                   その14へ続く



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