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その84の4『宇宙人の話』

 「白いお花で、『たすけて』って書いてなかった?」


 亜理紗ちゃんの報告を聞いて、しばしの間は知恵ちゃんも凛ちゃんも唖然とした顔をしていました。ただ、その言葉の意味が頭に入ってくると。凛ちゃんはいち早く手をあげて言います。


 「あ……私、怖いから帰るわね」

 「りんりん、帰るの?」

 「うん。チエきちも帰った方がいいわよ!」

 「いや、私は大丈夫だけど……」


 凛ちゃんは怖い話が始まったと見るや、知恵ちゃんに忠告だけ残し、そそくさと帰ってしまいました。こういった不可解な現象は亜理紗ちゃんも苦手なはずですが、今回は意外と冷静な様子であって、それを知恵ちゃんは不思議そうにしています。


 「アリサちゃんは、怖くないの?」

 「助けてっていうから、もしかしたら助けないと大変だし……」

 「……私、もう一回、見てくる」


 恐怖心よりも責任感が勝って、亜理紗ちゃんは困惑した様子ながらも逃げ出しはしません。本当にメッセージが書いてあったのかを確かめなくてはと考え、知恵ちゃんは再びすべり台へと向かいました。すべり台をのぼって、亜理紗ちゃんと同じように背伸びしながら花壇を見つめます。

 

 「……」


 また花壇を見ている内に順番待ちができてしまったので、知恵ちゃんはすべり台を降りてきました。ただ、やっぱり文字は見えなかったらしく、亜理紗ちゃんの横に座り込んで考え込んでいました。


 「私には見えなかった……」

 「私、見てくるね」


 男の子たちの順番待ちにまざって、亜理紗ちゃんがすべり台の階段へと並びます。上に登って、ちょっと花壇の様子を見て、亜理紗ちゃんもすべり台をすべりました。小走りながらに、やや表情は明るくして、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんの元へと戻ってきます。


 「……どうだったの?」

 「『たすける』になってた……なんかね。今、助けに行ってるみたい」

 「え……誰が?」

 「誰だろう……」


 メッセージは変化していたようで、2人が知らない間にも誰かが誰かに何かを伝えたようです。この公園を誰が見ているのか。亜理紗ちゃんと知恵ちゃんはベンチに腰かけたまま、空を、木を、花を、鳥を、遊んでいる子供たちや、立ち話をしている主婦の人たちを観察しています。ちょうちょが2人の目の前を飛んでいきます。普通のちょうちょなのですが、それすらも今の2人には怪しげに見えてきます。


 「……ッ!」


 一瞬、空がキラリと光ったように思い、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんはパッと顔を上げました。でも、空には飛行機も飛んでおらず、まだ星が出る時間でもありません。あとは何も見当たらず、諦めて目線をおろします。


 「……?」


 すると、先ほどまで遊んでいた子供たちも、立ち話をしていた人たちも、ちょうちょも、鳥も、公園からいなくなっていました。風の音すらしません。あまりにも静かで、まるで知らない場所へ来たようです。そんな中、亜理紗ちゃんは立ち上がり、すべり台へと向かいました。


 「文字が変わってるかも」

 「あっ……待って」


 亜理紗ちゃんがすべり台の階段をのぼり、その後ろを知恵ちゃんもついていきます。空からは星のようなものが落ちて、花壇に刺さるのが見えました。肩をぎゅっと押しつけ合いながら、2人はすべり台のてっぺんより花壇を見下ろします。

 

 「……」


 花壇に文字は浮かび上がっておらず、でも白いお花はキレイな円を描いていました。そして、空まで見えるほどの大きな丸となっていました。それをじっと見つめている内、2人はすべり台の下から声をかけられたのに気づきました。


 「ほら、チエきち。2人でのぼると危ないわよ」

 「……あ。りんりんだ」

 

 帰ったはずの凛ちゃんが戻ってきており、2人が降りると交代ですべり台に登りました。お花の描いている丸い円を確認できたので、満足そうに凛ちゃんはすべり台をすべり降りてきます。


 「ほら、私の言った通りだったでしょ?ミステリーサークルよ」

 「りんりん、帰ったんじゃなかったっけ?」

 「え?なんで?」


 亜理紗ちゃんの疑問に凛ちゃんは疑問を返します。凛ちゃんだけでなく、公園には他の人たちも戻って来ていました。あとは何度も見ても、花壇には丸い円しか浮かび上がらず、文字らしきものは見えてきませんでした。


 「チエきち、これからどうするの?」

 「どうもしないけど」

 「うちに遊びに来てもいいわよ!」

 「う……うん」


 当初の目的を達成し、知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは、凛ちゃんの家へと遊びに行くと決めました。凛ちゃんの背中を追いつつ公園を出る間際、ふと2人は公園を見返します。


 「……」


 なんの変哲もない、普通の風景があります。ただ、どこか視線を感じるような、どことない違和感を覚えつつ、2人は同時に空を見上げました。雲の1つもない空です。それを目にして、また2人は気持ちをあわせるようにつぶやきました。


 「……気のせいか」

その85へ続く

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