その84の1『宇宙人の話』
「ちーちゃん。これ、どんな映画なの?」
「宇宙の戦争の映画だって」
ある平日の夕方、知恵ちゃんたちは映画を見にやって来ていました。知恵ちゃんのお母さんが試写会のチケットを懸賞で当てたのですが、偶然にも亜理紗ちゃんのお母さんも同じものを持っていたので、知恵ちゃんの家の車で一緒に映画館を訪れたのでした。
「それじゃあ、終わったら迎えに来るから」
試写会はペアチケットなので、1枚で2人まで入れます。知恵ちゃんのお父さんは知恵ちゃんたちを映画館の近くで車から下ろすと、映画が終わるまで時間を潰しに出かけました。実際に見に行くのは知恵ちゃんとお母さん。あとは亜理紗ちゃんとお母さんの4人です。
「ちーちゃんのお父さんは、映画はいいの?」
「お父さん、始まったら1人で見に来るからいいって」
お父さんはパンフレットが欲しいので、試写会ではなく公開後に改めて来るとの事でした。グッズの販売はされていませんでしたが、ジュースや食べ物の購入は可能でしたので、知恵ちゃんと亜理紗ちゃんはチュロスという棒状のドーナッツを買ってもらいました。
知恵ちゃんのお母さんがポップコーンも買いましたが、バケツいっぱいの量がカップに入っていて、1人では食べきれそうにありません。なので、それはみんなで食べることにしました。試写会のチケットを係の人に切ってもらい、4人は映画館へと入ります。
「お母さん……あんまり人がいない。たくさん席がある」
「平日だからね」
亜理紗ちゃんが映画館を見回しながら、どこの席へ座るかお母さんに相談しています。映画の始まる時間までは近いものの、平日ということもあって試写会に来ている人は多くありません。そこで好きな席を選んで座ることができました。
「私、一番前がいい」
「アリサ。一番前は少し見づらいよ」
「じゃあ、一番後ろでいい」
「真ん中にしましょう……」
お母さんのオススメで、映画館の中央付近にある席へと座りました。チュロスを食べながら、知恵ちゃんは試写会のチケットを見つめます。そこには映画のタイトルとして、『星間戦争 エピソード2』と書かれています。
「お母さん。エピソード2ってなに?」
「2番目ってことだよ」
「2番目から見ていいの?」
「大丈夫、お母さんも1は見てないから」
物語が解るかは置いておいて、知恵ちゃんはチケットに描かれている写真を見つめます。輝く宇宙をバックにして、光る剣を持った人や、カエルのような宇宙人、ロボットなどが映っています。どのようなお話かは知恵ちゃんも知りませんでしたが、ビジュアルを見た限りでは面白そうな映画です。
「……」
席が半分も埋まらぬうちに、映画館は灯りが消えて暗くなりました。映画が始まります。その頃にはすでに知恵ちゃんのチュロスはなくなっていて、お母さんのポップコーンへと手をつけていました。
亜理紗ちゃんは映画の最初の30分で眠りましたが、最新のコンピュータグラフィックスを使って描かれた映像は迫力があり、知恵ちゃんは最後まで楽しく見ることができました。一時間が経った頃には亜理紗ちゃんも目が覚めていて、クライマックスのアクションシーンを観賞していました。
「楽しかった?」
「うん。楽しかった」
途中まで眠っていた亜理紗ちゃんが、お母さんに感想を伝えています。映画に出てきたロボットが可愛かったので、知恵ちゃんはグッズが欲しかったのですが、まだ売店にグッズは並んでいないので残念そうにしていました。
電話でお父さんと連絡を取り、車で迎えに来てくれるまで外で待っていました。もう空は暗くなっていて、点々と白い星が光っています。空を見上げながら、亜理紗ちゃんは映画の内容を思い出していました。
「ちーちゃん。宇宙人っているのかな?」
「どうだろう……」
空の星は遠く、生き物がいるのかすら見えません。宇宙に行ったという人も身近にいないので、亜理紗ちゃんは未知なる宇宙へと想像を広げていました。
「ちーちゃん……」
「……?」
「光る剣で戦う人も、宇宙にいるのかな」
「それはいなそう……」
その84の2へ続く






