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その83の6『コンセントの話』

 逆立ち状態であったロボットが背筋を伸ばすと、胴体部分がグルンと上下に回転しました。これでやっと、ロボットは正しい姿を取り戻しました。見つかると攻撃されるのではないかとして、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは曲がり角の壁に隠れて様子を見ています。


 「……ちーちゃん。あのロボット、寝てない?」

 「寝起きが悪いのかもしれない」


 ロボットは立ち上がったまま、立ち止まったままで、ガタガタと体を振動させています。パーツがくっついたからといって、サビや損傷がなおった訳ではないので、まだ体の調子は悪そうです。しばらく休んだ後、やっとロボットは両手を広げました。


 ロボットは手をぎこちなく動かして、ゆかに落ちているガラクタをすくいとろうとします。しかし、いくつかの指が足りないままなので、乗ったガラクタはボロボロと落ちてしまいます。体まで動かしてしまえば、もう手の中には何も残りません。


 「……」


 ゴロゴロと頭を回して動かし、ロボットは空っぽになった手をのぞいています。UFOキャッチャーのクレーンのように手を動かすと、下に落ちているものをひろいあげようとして、またガシャガシャとこぼしていました。それを指さしながら、亜理紗ちゃんが知恵ちゃんに聞いています。


 「あれ、なにしてるんだろう……」

 「ひろいたいみたいだけど」


 ロボットの目的は2人には解りませんでしたが、作業のはかどらないロボットの都合も関知せず、部屋の壁にある大きな穴からは追加でガラクタが流れ出てきました。散らかり放題な部屋と、動作を停止していたロボットの様子から見て、2人は片付けが進んでいないのだと知ります。


 「ちーちゃん。残りの指、ないかな?」

 「さっき探したけど、見つからなかったけど」

 「もう一回、探してみよう」


 ロボットに気づかれないよう、亜理紗ちゃんは落ちているガラクタの間を忍び足で進みます。明らかにロボットの視界には入っているのですが、ロボットは動いているものについては興味を示しません。寡黙に、進まない作業を延々と続けています。


 「アリサちゃん。あった?」

 「ない」


 指にも赤い線の模様があるので、落ちていれば簡単に解ります。しかし、部屋のどこにも落ちている様子はありません。念のために隣の部屋まで探しに行くも、やっぱりロボットの指は落ちていませんでした。そこで知恵ちゃんは指の行方を考えます。


 「捨てちゃったんじゃないの?」

 「なにを?」

 「自分の指」


 片づけをする中で、自分の指を間違えて捨てたのではないかとします。すると、探したところで見つかる訳もありません。それを知った亜理紗ちゃんは、足元に落ちている金属の短いツツをひろいあげました。


 「これでいいかな」

 「そんな適当な……」


 ツツを持って、亜理紗ちゃんはロボットへと近づきます。ロボットは近くで見ると影を作って大きく、空からの逆光で顔が見えません。でも、動きは遅いので危険ではありませんでした。亜理紗ちゃんはツツを指のない部分へと差し出し、緊張ながらに反応を見ています。


 「あ……くっついた」

 「くっついたの?」


 ツツにコードが巻きつき、格好は悪いながらも手にくっつきました。指でなくてもいいのだと解り、別の指の付け根にも、指の形に似たガラクタを添えてあげます。


 「……ちーちゃん。指がそろった」

 「そろったの?」


 両手に5本ずつ指がそろい、ロボットの手にはガラクタがおさまるようになりました。それらをひろうことに成功すると、ロボットは壁の高い場所にある穴へと運んでいきます。動きのぎこちなさに似合わず、きちんとガラクタを分別するようにして、それぞれ別の穴へと入れていきます。


 「ねえ。これ全部、片付けるのかな?」

 「大変だ……私にはできない」


 片付けの苦手な亜理紗ちゃんは、ロボットの働きぶりに感心しています。それから15分ほどすると、部屋にあるガラクタは1つ残らず分別されて、最初とは比べものにならないほどキレイになりました。やることがなくなってしまったロボットは座り込み、一休みとばかりにうなだれたまま、体に光らせていたランプを消しました。


 「……あれ?」


 天井のない部屋に強い光が差し込み、それに目をくらませます。次に目を開いた時にはもう、2人は空き地の草むらへと戻って来ていました。伸びきった草むらを抜けようと、足を上げて歩き出します。こんなに荒れ放題な空き地なのに、不思議とゴミらしきものは1つも落ちていないのに知恵ちゃんは気がつきました。


 「ちーちゃん。まだ時間あったら、ゲームしよう」

 「うん」


 亜理紗ちゃんの家に帰って時計を見ると、お散歩に出てからあまり時間は経っていませんでした。ゲーム機の充電も済んではいませんでしたが、ふと知恵ちゃんは亜理紗ちゃんの机の上に目を向けました。


 「ここ片付けたら、ベッドまで線が届くんじゃないの?」

 「あ……」


 ものがいっぱい乗っている机の上を整理すると、知恵ちゃんの言う通りに充電機のコードはベッドまで届きました。これでゲームの続きができます。でも、知恵ちゃんは物がたくさん置いてある亜理紗ちゃんの部屋を気にして、ロボットの片付けていた部屋と見比べるようにしてながめています。


 「アリサちゃんの部屋、ロボットに来てもらった方がいいんじゃないの?」

 「……いや、ここはいいの」


 散らかってはいますが、どれも亜理紗ちゃんのコレクションなので、捨てられると困るのです。ゲーム機の電源を入れつつも、亜理紗ちゃんは困り顔を隠すようにして、ゲームの画面を見下ろしていました。

その84へ続く

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