その83の5『コンセントの話』
もう差込口は見えていて、あと少しだけコードを伸ばすことができれば届くはずです。どこかでコードが引っかかっているのではないかと考え、2人はコードの先端を置いて通路を戻ってみることにします。
「ここ、こっちを通すと少し長くなるんじゃない?」
「なるほど」
コードの長さを確保するため、知恵ちゃんは問題点を探していきます。コードが障害物の外回りになっている場所を見つけ、亜理紗ちゃんと協力して内側に移動させてみます。これで、コードの通りがよくなりました。他にも、ガラクタに埋もれてしまった場所は、それらをどかしてコードを引き上げていきます。
「知恵プロ。どうですか?」
「これくらいでいいんじゃないの?」
ロボットの倒れている部屋まで戻りながら、目に見えている問題点は全て修正しました。差込口のある部屋へ向かいます。そうして意気揚々と、亜理紗ちゃんはコードの先端を持って引っ張りました。でも、やっぱりコードのプラグは、カプセルの台座についている差込口まで届きません。
「……知恵プロ。まだ届かないです」
「う~ん……」
そうは言われても、すでに改善点は他にありません。あとはロボットを動かすか、壁を壊すくらいしか工夫できません。そんな中で知恵ちゃんは、ぼんやりと暗い部屋のすみに、白くて小さい光があるのを発見しました。近づいてしゃがみこみ、光の先を確かめます。
「アリサちゃん。穴がある」
「あな?」
亜理紗ちゃんはヒザが汚れることも恐れず、じっくりと体を屈めて穴をのぞきこみます。地面の間際に空いた小さな穴は壁を貫通していて、どこかへ繋がっているのが解ります。穴の奥、うすい光の中に、ガラクタらしきものがうかがえます。
「あっちにも部屋がある」
「……あ」
亜理紗ちゃんの声を聞いて、知恵ちゃんは穴の先がどこに繋がっているのか予想を立てました。それが正しいかを確かめる為、来た道に足を戻します。
「アリサちゃん。あっち行ってみよう」
「どこ?」
2人はコードの先端を持って、ロボットのいる部屋まで戻りました。そのまま、コードの先端が落ちていた部屋まで移動します。部屋の壁を調べてみると、そこには先程と同じくらいの小さな穴が開いていました。
「こっちにも穴があった!ちーちゃん、よく気づいたね」
「こっちに線の先が落ちてたから」
コードの先端を穴に通して、するするとコードを壁の向こうへと送っていきます。そして、今度はカプセルのある部屋まで走っていきます。そちらの壁の穴からは、さっき通したコードの先端が出ていました。
「これなら届く。差していい?」
「うん」
念願かなって、ついに亜理紗ちゃんはコードの先をカプセルの台座に繋ぎます。ロボットのいる部屋の方から、けたたましい音が聞こえてきました。モーターが回るようなギュイインという音の中に、一定周期で金属の弾ける音がします。
「ちーちゃん。戻ろう」
「うん」
ロボットのいる部屋へ近づくにつれて、モーター音が大きく耳に届きます。それに加えて、何かが燃えるような音、金属のきしむ音、鉄琴のような甲高い音が重なります。通路の壁に隠れながら、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは、こっそりとロボットの姿を確認しました。
「……」
ロボットは淡い光を体から放ちながら、ぎこちなく体を起こしていました。よろよろと頼りないながらも、ゆっくりと立ち上がります。しかし、2人がロボットの顔だと思っていたものは下にあり、腰らしきものが上についていました。
「ちーちゃん。あれ、立ってるの?」
「逆立ちかもしれない……」
その83の6へ続く






