その83の2『コンセントの話』
「ダメだ。勝てない。やっぱり、ちーちゃんはプロだ」
2人が遊んでいるのは、石を置いた場所までの距離を予想して、その長さ分だけナワを伸ばすゲームです。自分で作った遊びなのに知恵ちゃんに全く勝てず、どうにかして勝てないかと亜理紗ちゃんは頭を抱えています。他のゲームならば基本的に亜理紗ちゃんが勝っていましたし、またはいい勝負くらいにはなるのですが、今回に関しては知恵ちゃんに勝てる風でもありません。
「もしや、何かコツがあるの?」
「いや、別に」
最後の勝負と決めて挑戦しましたが、やっぱり知恵ちゃんは距離ぴったりにヒモを伸ばします。これはセンスがないのだとして、いつかリベンジを果たすと決めて、今日のところはコンセントごっこを終えました。
「もうゲーム、充電できたかな」
「30分くらいしか経ってないし、まだじゃない?」
ゲームの充電には時間がかかると考え、2人はお散歩に出かけることにしました。遠くまではいけないので、家が見える範囲をブラブラするだけです。何か面白いものでもないかと、亜理紗ちゃんは街の中をキョロキョロしながら歩いています。
「……あれ。何か落ちてるよ」
「……?」
亜理紗ちゃんの家の裏には空き地があり、手入れもされていないので草が生え放題です。空き地のしげみの中を亜理紗ちゃんが指さしており、知恵ちゃんも腰を屈めて視線をもぐらせます。
「……なんだろう。解んないけど」
「ドラム缶かな?」
空き地には立ち入り禁止の札も、ロープも張られておらず、冬になれば雪捨て場として使われている場所です。なるべく草の少ない場所を歩き、空き地の中に落ちている茶色いものへと近づいていきます。
最初は空き缶に見えていたものが、近づくと思いのほか大きいと解ります。丸い筒状ではありますが、複雑な形をしています。亜理紗ちゃんが草をかきわけてしゃがみこみ、その正体を知恵ちゃんに伝えました。
「ちーちゃん。手だ」
「え……」
「手が落ちてるよ」
衝撃的な事実が明らかとなり、知恵ちゃんは見たくない一心で逃げ出しました。しかし、気づくと2人のいる場所は空き地ではなくなっていて、灰色の壁で囲われた大きな部屋の中にいると解りました。足元には草むらの代わりに、金属でできた何かの部品が散らばっています。辺りを見回しながら、知恵ちゃんは仕方なく亜理紗ちゃんを探します。
「ちーちゃん。こっちこっち」
「……」
亜理紗ちゃんの足元に転がっているものは、確かに手の形をしていました。でも、それは人間の手ではなくて、金属で作られた大きな手でした。手にはヒジから先がなく、動きもしません。さびたボディは窓から差し込む陽の光を受けて、鈍い輝きを放っています。
「機械なの?」
「うん。ロボットの手みたい」
手は塗装もはげてボロボロで、指も1つ取れていて足りていません。ヒジに繋がる部分からは血管のようにコードが出ています。パーツが足りていないのを見て、亜理紗ちゃんは周辺に落ちているガラクタから、それに見合うものを探し始めました。
「ちーちゃん。指を見つけたら教えて」
「うん……」
落ちていたところで、取れてしまっていては修理する方法もありません。それでも探すだけは探してあげようと、知恵ちゃんも一緒に視線を動かし始めました。
「ちーちゃん。なにかあった?」
「特には……」
「……あっ」
亜理紗ちゃんが何かを見つけ、床に散らばっているものの中から鉄の板のようなものをひろいあげました。ひろったものを自分の顔の位置に持ち上げながら、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんに見せました。
「ちーちゃん。お面」
「……」
亜理紗ちゃんの持っているものは四角い金属の板でしたが、やや曲線を描いていて、目や口を思わせる穴が開いています。その板と、落ちている腕とを見て、自分たちのいる場所が、どこかの施設であることを確かめ、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんに伝えました。
「それ……これの顔なんじゃないの?」
「……顔?」
その83の3へ続きます






