その13の3『料理の話』
「じゃ、ちーちゃん。体育着に着替えたら戻ってきて」
「なんで?」
「汚くしてもいい服にしたら戻ってきて」
「体操服も汚したらダメなんじゃないの?」
「……え?そうなの?」
そう約束をすると、知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは自分の家へと戻り、土で汚れても良さそうな服を探し始めました。丁度、亜理紗ちゃんのお母さんが帰ってきた為、亜理紗ちゃんは少し小さめのジャージを出してもらい、それに着替えると庭へと戻ります。
「ちーちゃん……それでいいの?」
「これなら汚していいって」
知恵ちゃんは亜理紗ちゃんと違い、ちゃんとしたTシャツとジーンズを着ていたからか、その格好で穴の中に入るかと亜理紗ちゃんは確認しています。そうでなくても、あまり知恵ちゃんは普段からジーンズをはかないので、亜理紗ちゃんはもの珍しそうにながめていました。
石のタイルが置いてあった場所には穴が残っており、そう深くない穴の先には灯りが見えます。亜理紗ちゃんが先頭になって穴へと入り、その姿が見えなくなると知恵ちゃんも後を追いました。
「ちーちゃん。大丈夫?」
「思ったよりも深くなかったから大丈夫」
穴は途中から坂になっていて、登れば簡単に地上へと出られます。穴の中はタイマツも窓もないのに不思議と明るく、広さも知恵ちゃんの部屋より狭いくらいですが、壁や天井はは石で固められていて崩れる様子はありません。そんな洞窟のような場所の中央には大きな水たまりがあり、その周りには小さくて黒い影がフワフワと並んでいました。
「なんだろう」
亜理紗ちゃんが影の後ろから水たまりを見下ろします。水たまりの中には石ころが幾つも沈めてあって、影の一つが枝を使って水たまりをかきまぜていました。
「ちーちゃん。これ、なんだろう」
「さぁ……」
ジャボジャボとかき混ぜられる水たまりを2人が見つめていると、亜理紗ちゃんの足元を通って別の影が水たまりへと駆け寄り、持ってきた土の塊を水たまりへと投げ込みました。みるみる内に水は茶色く染まっていきます。ドロドロとした水たまりを見て、亜理紗ちゃんは水たまりの正体に気がつきました。
「……カレーだ!カレーを作っている!」
「こんなカレーないよ……」
そういうと、改めて亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは茶色い水たまりをのぞきこみます。そこには黒いビニールのようなものも浮いていて、他に白い石もポツポツと入っていました。
「わかめとお豆腐……お味噌汁だったか」
「こんなお味噌汁ないよ……」
その13の4へ続く






