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その82の3『寄り道の話』

 犬の五郎丸を見に行くのは後回しにして、道で見つけたクマのような犬についても後回しにして、亜理紗ちゃんはジャングルの中にいる謎の生物を追いかけています。ズンズンと重くのしかかるような足音は聞こえており、その音を頼りにしながら日向にそって、ゆっくりと2人はジャングルを進んでいきます。


 「ちーちゃん……あそこ。しっぽがいたよ」

 「危ないんじゃないの?」

 「ちょっと見るだけだから大丈夫」


 そう言っている亜理紗ちゃんも謎の生物を危険視はしており、逃げ帰るルートを確認しつつ、身を隠しながら足を運んでいます。謎の生物は木々のスキマからシッポを出していて、それは緑のシッポにカラフルなリボンを巻いたような、南国を思わせるトロピカルな模様をしていました。


 「……アリサちゃん。これ、なんだろう」

 「なに?」


 もうちょっとで謎の生物の全容が明らかとなります。そのすんでのところで、知恵ちゃんの足元にピンク色の長いヒモが落ちているのを発見しました。それはどこかへ引っ張られるかのように、するすると末端を引きずっていきます。その先に何があるのかは、木々に視界を阻まれて解りません。


 「ちーちゃん。なにあれ?」

 「……行っちゃうけど」

 「大きい生き物も行っちゃう」

 「どうするの?」


 ピンク色のヒモも、ここで見失ってしまえば、二度と正体が解らないものとなってしまいます。ジャングルに身を隠す大きな生き物も、どんどん木々の奥へと歩いていってしまいます。どちらかを追えば、どちらかは見失ってしまいます。仕方なく、亜理紗ちゃんはピンクのヒモを手に持ちました。


 「私、ちょっと引っ張ってるから、あっち見てきて」

 「ええ?」

 「……あああ。ダメだ。ひっぱられちゃう」


 ピンクのヒモを亜理紗ちゃんは綱引きするように引っ張りますが、ヒモの力は非常に強く、亜理紗ちゃんが引っ張っても全く力が及びません。このままでははぐれてしまうと考え、知恵ちゃんもピンクのヒモにしがみつきました。


 「ちーちゃん。あそこ。穴だ」

 「……んんん」


 未だピンクのヒモは繋がっている先も、ヒモを巻き取っている正体も見えず、ただただどこかへと引っ張られていきます。知恵ちゃんと亜理紗ちゃんが2人がかりで踏ん張っても、全く止まる気配はありません。ヒモの先は木の穴へと続いており、そのまま2人は穴へと入りました。


 「……ちーちゃん。いる?」

 「いるよ」


 手にピンクのヒモの感触を残しながらも、辺りは真っ暗です。ヒモに足をひきずられること数秒、急に明るい場所へと抜け出しました。


 「……あれ?」

 「アリサちゃんの家の前だ」


 ふと気づくと、2人は亜理紗ちゃんの家の前にいました。でも、手にはピンク色のヒモが握られたまま。明るい場所で見てみれば、ピンクのヒモは、うすく毛が生えているのが解りました。まだまだヒモは続いていて、亜理紗ちゃんの家の庭の方へと引っ張られていきます。


 「ちーちゃん。これ、なんなんだろう」

 「アリサちゃん。五郎丸はいいの?」

 「でも、これも気になる……」


 知恵ちゃんが手を離そうとすると、ピンクのヒモはピヨピヨと左右に揺れます。これも生き物の一部なのだと解り、むしろ何の生き物なのか謎は深まります。結局、ヒモの先が見たいという亜理紗ちゃんの希望を尊重して、そのまま2人はヒモに引かれるまま進んでいきました。


 「……?」


 亜理紗ちゃんの家の角を曲がった先。そこは庭ではなく、青い水晶で作られた洞窟の中でした。洞窟の岩は光をまとっていて明るく、ピンク色のヒモが続く先にはまばゆい光が見えます。


 「あそこに、ヒモの体があるのかな?」

 「……」

 「……アリサちゃん?」


 知恵ちゃんはヒモの先にある本体を気にしているのですが、亜理紗ちゃんの視線は別の方向へと向いていました。そちらには横道があり、道の先には他とは違う、黄金の輝きが透けて見えています。


 「ちーちゃん……あれ、なんだろう」

 「気にしないで……気にしないでちょうだい……」



その82の4へ続く

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