表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
276/367

その82の2『寄り道の話』

 「そろそろ、むいていいかな?」

 「いいんじゃない?」

 

 知恵ちゃんの同意を得て、亜理紗ちゃんは赤エンピツのヒモを引きます。赤エンピツの先がむけて、キレイな赤い芯が出てきました。何も言わずに、ちょっと嬉しそうにしながら、亜理紗ちゃんは再び用紙にエンピツを立てました。


 「……アリサちゃん。それ、何をかいてるの?」

 「イヌの五郎丸」

 「……そんな模様だった?」

 「……あれ?右だっけ?左だっけ?」


 五郎丸とは、学校の近くの家で飼われている犬の名前です。知恵ちゃんも亜理紗ちゃんも五郎丸の犬種などは知りませんが、片方の前足が黒いことだけはおぼえています。ただでも、それが右だったか、左だったかが今現在の論点です。


 「右だったと思ったんだけど」

 「左じゃなかった?」


 亜理紗ちゃんは右足を濃く塗っていて、でも知恵ちゃんは左だったと記憶しています。明日になれば登校の際に確認できるのですが、このままでは気になってお絵かきに集中できません。


 「見に行く」

 「行くの?今から?」

 「うん」

 

 五郎丸が家にいるかは解りませんが、亜理紗ちゃんは今から見に行こうと言い出しました。学校の近くまで出かけてくるとお母さんに声をかけ、2人は亜理紗ちゃんの家を出ます。五郎丸の足の色の他に、どの部分が黒かったかなどを思い出しています。


 「ちーちゃん。五郎丸の耳って黒かったっけ?」

 「耳は白かったと思うけど。そういえば、なんでアリサちゃん、五郎丸の名前、知ってるの?」

 「飼ってるお姉さんに聞いた」

 「話しかけたの?」

 「うん」


 五郎丸がお散歩をしている時、飼い主さんに名前を聞いたので、亜理紗ちゃんは五郎丸の名前を知っているのでした。ほえる犬でもないので、触らせてもらったこともあります。そうして五郎丸のことを話しながら歩いていると、向かいの歩道を大きな犬が歩いていきました。


 「……ちーちゃん。クマだ。クマがいる」

 「背中に乗れそう」


 普段は歩かない時間に通学路を歩いたので、見た事のないワンちゃんと出くわします。ワンちゃんの体長は知恵ちゃんたちの2倍以上もあって、一緒に歩いている飼い主さんよりも大きく見えます。五郎丸の元へ向かっていた足を戻して、亜理紗ちゃんはクマのような犬を追いかけ始めました。


 「あれ……五郎丸は?」

 「あのワンちゃんをもっと見たいから、ちょっと待って」


 五郎丸を見に行くつもりだったはずが、もう亜理紗ちゃんの興味は大きいワンちゃんに移っていました。やや道を外れて、ワンちゃんが入っていった路地へと入ります。知恵ちゃんも亜理紗ちゃんを追って角を曲がります。しかし、そこにはもうワンちゃんはいませんでした。


 「あれ……どこ?」

 「アリサちゃん……ここ、どこ?」


 高い塀の後ろには、ジャングルのような場所が広がっていました。家や電信柱はありません。木には描いたようなシマシマ模様がついていますし、歯車のような形の花も咲いています。どう見ても日本ではありません。2人の後ろには大きな木が生えていて、木の根元にはぽっかりと穴が開いています。


 「……」


 試しに知恵ちゃんが穴の中へ戻ってみると、ついさっきまでいた住宅地へと続いていました。また曲がり角を曲がってジャングルへと戻ってきた知恵ちゃんに、亜理紗ちゃんは木々の向こうを指さして言いました。


 「あっちに、なんかいたんだけど」

 「なに?」

 「すごい大きい動物」


 よく姿は見えませんでしたが、ジャングルの木々に隠れながら、大きな何かが歩いていったようです。知恵ちゃんは元の世界へ戻ろうとしていますが、亜理紗ちゃんはジャングルの奥にいる生き物を見たい様子です。


 「ちーちゃん。ちょっとだけ見に行こう」

 「五郎丸は?」

 「五郎丸は……あとでにする」


その82の3へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ