その81の5『大冒険の話』
それから3つほど迷路の壁を消して、なんとかお宝の置いてあるゴールまで到着しました。これで、探検家アリーサーの冒険は無事に終了です。
「ちーちゃん。面白かった?」
「面白かった」
冒険は終わってしまいましたが、まだ時刻は5時前で、亜理紗ちゃんが帰るまでには少し時間があります。そこで、もっと冒険が見たいと知恵ちゃんは亜理紗ちゃんにお願いします。
「別のお宝はないの?」
「えっとね。じゃあ、メダルをたくさん集めると、何か起きるから集めてるってことにする」
絵日記帳を開き直して、亜理紗ちゃんは丸いメダルを描きました。メダルは赤青黄色、緑や紫も交えて、様々な色鉛筆で虹色に塗られます。そんな虹色のメダルの存在を明かしたのち、亜理紗ちゃんは2枚目のメダルを探す旅を始めました。
「2枚目のメダルは、どこにあるの?」
「アリーサーは砂漠に探しにいくよ」
ざっと茶色の色鉛筆で全体を塗って、そんな砂漠の中に灰色の山を描いていきます。それがなんなのか、最後まで見ていても知恵ちゃんには解りません。
「これは?」
「砂漠のお城」
灰色の山は、石で作られたお城でした。そのページには絵だけ描いて、亜理紗ちゃんは次のページへと進んでしまいます。
「あれ……文字は書かなくていいんだ」
「んん。なんか、別に書くことなかった……」
亜理紗ちゃんは文章よりも絵を描きたいので、絵日記帳の下半分はおろそかです。ついには絵を描く方のスペースに人物の名前を書いてしまったりします。
「これはタヌキさんね」
「タヌキさんが砂漠にいるの?」
「砂漠のタヌキさんなの」
お城の中には、茶色い生き物が描かれます。そこに亜理紗ちゃんは『たぬき』と名前を書きます。タヌキさんは1匹だけじゃなくて、お城の中にたくさんいます。こんなところで、たぬきさんは何をしているのか。それは文章として書いていきます。
『タヌキさんはメダルをさがしてて アリーサーと きょうそうするのだ』
タヌキさんもメダルを探しに来ているらしく、どちらが先に見つけ出すかアリーサーと競争をするようです。そのようなストーリーが定まったところで、部屋の外からお母さんの声が聞こえてきました。
「アリサちゃん。お母さんが迎えに来てるよ」
「はい。じゃあ、ちーちゃん。次、続きを書くよ」
「うん」
今日は家族で夕食を食べに行くので、亜理紗ちゃんのお母さんとお父さんが家の前で待っていました。お別れをすませると、隣の家からは車が出ていきます。出かけていく亜理紗ちゃんの見送りをして、知恵ちゃんも家のリビングへと入りました。
「知恵。おばちゃんのこと、おぼえてる?お母さんのお姉さん」
「うん」
テーブルのイスに腰掛けているお母さんが、携帯電話を見つめながら知恵ちゃんに聞きました。おばちゃんというのは、知恵ちゃんのお母さんのお姉さんで、たまに家へと遊びに来る親戚の人でした。
「その、おばちゃんがね。その内、また家に来るみたい。何かプレゼントがあるから、次に来た時に渡すって」
「そうなんだ」
おばちゃんは仕事で海外に出ている人なので、なかなか日本へは帰ってきません。人見知りの知恵ちゃんも、おばちゃんのことは苦手にしていないので、決して会うのが嫌ではありませんでした。
「お母さん。プレゼントってなんだろう」
「また外国のお菓子じゃないの?」
「そうかな……」
おばちゃんが買ってきてくれるものは大体、外国語が書かれた変な箱や缶に入った、普通のお菓子です。また、お土産がアーモンドチョコだといいなと思いながら、知恵ちゃんはおばちゃんのことを思い出していました。
その82へ続く






