その81の4『大冒険の話』
文房具を買って家に帰り、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんの部屋にオジャマしました。持参した筆箱からマジックペンを取り出し、絵日記帳の表紙に物語のタイトルを刻み込みます。
「アリサの大冒険……あっ。アリーサーの大冒険にしよう」
「アリーサーって誰なの?アリサちゃん?」
「アリーサーは、かっこいいおじさん。ムチで戦う」
アリーサーは亜理紗ちゃん本人ではなく、宝探しを生業としているオジサンです。主人公の名前とタイトルが決まり、まずは表紙をめくって1ページ目を開きます。どんな冒険にしようかと、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんに相談しています。
「ちーちゃん。どこ行きたい?」
「アリサちゃんは?」
「海」
「じゃあ、海にしよう」
絵日記帳の1ページ目で、アリーサーは海に行く事に決定しました。色鉛筆で豪快に青色に塗って、その中に探検家らしき人を描いていきます。
「これは宝の地図を見ながら海を泳ぐアリーサー」
「海の中に、紙の地図って持って入れるの?」
「……そっか!ダメだ!」
アリーサーの手に茶色い四角を持たせてみたものの、地図を持ったままでは海に入れないのではないかと知恵ちゃんに指摘されました。知恵ちゃんの消しゴムを借りて、宝の地図を消していきます。
「ちーちゃん。なんで色鉛筆って、こんなに消えにくいんだろう」
「さぁ……」
普通のエンピツで描いた線に比べて、どうして色鉛筆は消えにくいのか。それを亜理紗ちゃんは疑問に思っています。やや茶色くアトは残りましたが、宝の地図は絵日記帳から無事に消えました。地図の代わりに、亜理紗ちゃんは海にお魚を描いています。
「お魚なの?」
「アリーサーは頭が良いから、お魚とお話ができるんだ」
海とアリーサー、それとお魚を描き終わり、絵日記帳の下側にある文章欄へ文字を書いていきます。
おさかな 『たからものは山にあるよ』
アリーサー『ありがとう』
それだけ書いて、亜理紗ちゃんは次のページへ進みました。どうして海のお魚が、山にあるお宝のありかを知っているのか。知恵ちゃんは悩ましそうにしていましたが、深くは考えずに物語の続きを見守りました。
「次は山だから、山をたくさん描くよ」
「たくさんあったら、どの山か解らないんじゃないの?」
「目印があるから大丈夫」
亜理紗ちゃんは大きな山の適当なところに、茶色い丸を描きました。それがなんなのか、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんに質問しています。
「なにこれ?」
「これはアリーサー」
「目印は?」
「こっち」
真ん中にある大きな山のてっぺんに、灰色の四角い石を置きます。これがお宝のある山の目印です。
「ここに乗ると、山が動いて道が出てくるの」
亜理紗ちゃんは山に腕を描き、山頂を持ち上げる形で手をそえました。山の上部分が開くということは、ちゃんと文章でも説明します。
『お山はてっぺんがあきます』
2ページ目を書き終わり、次のページへと進みます。もうお宝のある場所に到着してしまいましたが、まだまだ絵日記帳は30ページ分も余白があります。
「ちーちゃん。終わっちゃうんだけど……」
「山の中を迷路にすれば?」
「そうだ。ちーちゃん。頭いい」
山の中に迷路があることにして、その先にお宝が隠されている設定にします。亜理紗ちゃんは絵を描くスペースいっぱいに、定規を使って細かく迷路を描いていきました。迷路作りを始めると、亜理紗ちゃんはお菓子を食べるのも忘れて夢中でした。
「できた。ちーちゃん。やってみて」
「うん」
知恵ちゃんはスタート地点からエンピツで線を引いていき、宝箱の描いてあるゴールをめざします。しかし、どこを通っても行き止まりについてしまい、どうしてもゴールに到着しません。
「これ、ゴールできない」
「ほんと?」
亜理紗ちゃんが自分でやってみます。やっぱりゴールできず、適当な場所の壁を消しゴムで消しました。色鉛筆で迷路を描いてしまったので、やっぱりキレイには線が消えません。うすく残った線を指さして、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんに言いました。
「ここ……動く壁だから、通れることにして」
「いいけど……」
動く壁は了承しましたが、それでもなおゴールできない事実については、さすがの知恵ちゃんも見過ごすことはできませんでした。
その81の5へ続く






