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その81の3『大冒険の話』

 家の近所で文房具を売っているお店は探せば複数あり、佐藤商店は文具以外にも様々なものが販売されている個人経営のお店です。斉藤文具店は名前の通りの文具専門店で、置いてある文具の種類は佐藤商店よりも多めです。


 「お母さん。斉藤文具店に行ってくる」

 「じゃあ、はい。200円と……30円あげる。おこづかい」


 知恵ちゃんが文具店に行くと伝えると、お母さんは230円を渡してくれました。これだけあれば、大体のノートや消しゴムは買うことができます。もらったお金とお財布をカバンに入れて、亜理紗ちゃんが出てくるのを家の前で待っています。


 「ちーちゃん。お待たせ」


 知恵ちゃんに遅れて3分後、亜理紗ちゃんが家から出てきました。遅れたお詫びとして、ガムのようなキャンディをくれます。

 

 「これあげる」

 「ありがとう」


 斉藤文具店は家から歩いてすぐの場所にあり、キャンディをかんで食べ終わった頃にはお店の前に到着していました。やや立て付けの悪い扉を横に引いて開くと、電子音がピロピロと鳴りました。


 「こんにちは」

 「いらっしゃい」


 レジには大学生くらいの女の人がいて、他にお客さんは来ていません。亜理紗ちゃんと知恵ちゃんはお店の入り口の辺りから、通路にそって順番に商品を見ていきます。


 「ちーちゃん。すごい。なにこれ」

 「……?」


 ペンの置いてあるコーナーで、亜理紗ちゃんはシャープペンシルの見本を手に取りました。指の当たる部分についているゴムは透明でキラキラしていて、まるでゼリーが巻いてあるような柔らかさです。太さも鉛筆の2倍くらいあって、重厚感はあるのに軽く、しかも手に馴染みます。


 「ちーちゃん。これは……きっと伝説のペンだ」

 「伝説のペン?」


 触り心地に驚いて、お値段を見て更に驚きました。知恵ちゃんの所持金と亜理紗ちゃんの小銭を集めても、まだまだお値段には足りません。


 「3000円……やっぱり、伝説のペンだ」

 「3000円で買えるのに伝説なんだ……」


 伝説のペンを誕生日プレゼントの候補に残しつつも、亜理紗ちゃんは来店の目的としていた消しゴムのコーナーに入りました。キャラクターの形をした小さな消しゴム、匂いがついているもの、どれがいいかと迷っていましたが、どれも手には取らずに別のコーナーに移動します。


 「消しゴムは?」

 「ちーちゃん。あれ買おう」

 「あれ?」


 亜理紗ちゃんが見つけ出したものは、絵日記用のノートでした。上半分が絵を描くスペースで、下は文を整えて書くために縦線が引いてあります。夏休みの一行日記ですらままならない亜理紗ちゃんが、絵日記のノートを買おうと言い出したことに知恵ちゃんは驚いています。


 「え……アリサちゃん。日記なんて書くの?」

 「日記は書かないけど」

 「なんに使うの?」

 「これにアリサの大冒険を書くから、ちーちゃんにも考えてもらうの」

 

 そうと決まれば、亜理紗ちゃんは迷わず絵日記帳をレジに持って行きます。それをもって、亜理紗ちゃんの所持金は2桁となりました。思いがけず亜理紗ちゃんの買い物が終わってしまい、知恵ちゃんは何か自分も買うものがないかと探しています。


 「ちーちゃんは、なにか買うの?」

 「えっと……」


 考えてみれば、亜理紗ちゃんの用事に付き合って来ただけなので、特に買いたいものはありません。すると、紙袋を持った亜理紗ちゃんが、ふと知恵ちゃんのカバンを指さして言いました。


 「ちーちゃんは、カバンにキーホルダーとか、バッヂとかつけないの?」

 「……?」


 知恵ちゃんのカバンは素っ気ない色をしていて飾り気もなく、肩から下げるためのヒモくらいしかついていません。キーホルダーを買えばいいのではないかと、亜理紗ちゃんは売り場を見てくれています。


 「私、えんぴつ買う」

 「キーホルダーはいいの?」

 「カバンが重くなるからいい」


 知恵ちゃんは家のエンピツが少なくなっていたのを思い出し、それを買って一緒にお店を出ました。結局、亜理紗ちゃんは消しゴムを買わずに終わったので、本当に良かったのかと知恵ちゃんは尋ねています。


 「アリサちゃん。消しゴムはよかったの?」

 「家を探せば、どこかにはある」

 「宝探しみたいだ」

 「お父さんの机が怪しいとにらんでいる。たくさん頼めばくれる」

 「強盗だ……」


その81の4へ続く

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