表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
271/367

その81の2『大冒険の話』

 小学3年生の視点で見れば、よく行くスーパーも遠くの場所です。車に乗らないと行けない場所なら、軽めの旅行の気持ちです。それが遠くの国ともなれば、まるで天竺を目指すような距離感です。地図にない場所については、あるかないかの想像しかできません。


 「ちーちゃん。アメリカって、行ってみたくない?」

 「行きたくはないけど……なんで?」

 「アメリカにはオモチャみたいな、ガチャガチャした色のケーキがあるって、テレビで言ってた」

 「それは……日本でも作れそう」


 亜理紗ちゃんの持つアメリカのイメージは鮮明でなく、真っ先に出てくるのはカラフルなカップケーキやドーナッツなどです。知恵ちゃんはお菓子は好きですが、味が良ければ見た目は気にしないので、日本のお菓子でも十分です。むしろ、あまり可愛い形をしていると、食べるのがもったいなくなってしまいます。


 「じゃあ、また学校のあとでね」

 「うん」


 学校へと到着し、クツをはきかえて自分たちの教室へと向かいます。亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは別々のクラスなので、教室の前で手を振れば、放課後までしばしのお別れです。知恵ちゃんが自分の机にランドセルを置いて、ノートや教科書を取り出していると、同じクラスの友達の桜ちゃんがやってきました。


 「知恵。おはよう」

 「おはよう」

 「昨日のドラマ、見た?」

 「ううん。見てない」


 桜ちゃんは昨日に放送していたテレビドラマのお話をしていて、でも知恵ちゃんはドラマを全く見てはいません。桜ちゃんから毎週のようにお話を聞くので、一瞬も見ていないのに知恵ちゃんは内容を知っています。逆に知恵ちゃんは桜ちゃんに話したいことはなく、ただ頷きながら桜ちゃんを見つめています。


 「昨日の放送ではね。主役の人が、約束を守るために世界の中心に向かってるんだけど、いいところなんだ」

 「世界の中心って、どこ?」

 「それは来週にならないと解らないけど……」

 「おはよう。知恵ちゃん」


 お手洗いに行っていた百合ちゃんも教室へと戻ってきたので、朝の会が始まるまで3人で楽しくお話をしていました。授業が始まれば、知恵ちゃんは黒板の文字をノートにうつしていきます。真面目に授業を聞きながら、たまに息抜きで窓の外へ視線を逃がしながら、いつもと変わらない日常を送っていきます。


 放課後になり、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんが迎えに来てくれるのを図書室で待っていました。その間、本屋さんで見かけた『ピーターの大冒険』が図書室にないか、小説の置いてある本棚をのぞいてみます。


 『トムの冒険』

  

 「ちがう……」


 別の人の冒険小説を発見こそしますが、目当てである『ピーターの大冒険』は図書室には置かれていません。仕方ないので『トムの冒険』を手に取ってみると、それはそれで面白そうな内容でしたので、次々とページをめくりました。6ページまで読んだところで、図書室のドアの開く音が聞こえてきました。


 「ちーちゃん。帰ろう」

 「うん」


 亜理紗ちゃんが迎えに来てくれたので、知恵ちゃんは読んでいた本を閉じました。その表紙を見ながら、亜理紗ちゃんは本について尋ねています。


 「なに読んでたの?」

 「トムの冒険。本当は、ピーターの大冒険を探してたんだけど」

 「なかったの?」

 「うん」


 学校の玄関へと向かいながら、知恵ちゃんは『ピーターの大冒険』のあらすじを亜理紗ちゃんに伝えます。すると、亜理紗ちゃんは、ずっと疑問に思っていったことを口に出しました。


 「今日、ずっと考えてたんだけど……」

 「……うん」

 「ちーちゃんの大冒険があったら、どんなところに行きたいと思う?」

 「……え?」


 言われてみれば、亜理紗ちゃんの行きたいところについて聞いたり、ピーターの大冒険を気にしたりはしていますが、実のところ自分では行きたい場所を話してはいませんでした。でも、本当に知恵ちゃんは出不精なので、どこへ行きたくもありません。学校から家へと帰る道中、ずっと亜理紗ちゃんと一緒に悩んだ末、家の前に来たところで知恵ちゃんは答えを出しました。


 「私……」

 「……」

 「私は、アリサちゃんの大冒険になら、ついていきたい」

 「そうなの?」


 質問を質問で返されたような答えを受け、亜理紗ちゃんは嬉しそうな、困ったような顔で考え込みました。そして、今日の大冒険について、用事ついでに知恵ちゃんへと行き先を告げました。


 「消しゴムを買いに行く大冒険なんだけど、佐藤商店に行く?」

 「それは大冒険なの?」

 「じゃあ、遠くの斉藤文具店に行く」

 「佐藤商店の2つ隣……」

その81の3へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ