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その80の2『お散歩の話』

 ヨーヨーが奔放に転がっていってしまうので、そのヒモに引かれて亜理紗ちゃんも走っていきます。スピードは速くありませんし、ヨーヨーの引く力も大したものではありません。知恵ちゃんも立ち上がると、急いで亜理紗ちゃんを追っていきます。


 「アリサちゃん。止まれないの?」

 「止まれるけど、面白そうだから、このまま行く」


 亜理紗ちゃんの家の横にある菜園を通り、裏にある庭を通り抜け、そのままヨーヨーは家の横にある狭い側面へと入っていきます。そこから家の正面へ出ると、そこはすでに見知らぬ世界へと変わっていました。


 「ちーちゃん!広いところに出た!」

 「……?」


 大地を左右に大きく割ったような地形、短く生えた草原が山にそって広がっています。視界の端には空まで届くほどの大樹がそびえたっていて、木の上の方を見ると巨大な木の実がなっていました。シカやキリンのような生き物が、木の実を欲しがる視線で空を見ています。


 知恵ちゃんの前を走る亜理紗ちゃんの髪が、ささやかな風に吹かれてなびいています。空は高くて、雲の流れは川のようです。それを見ている内、ドボンと音がして、世界は全て青色に変化しました。


 「……!」

 「……?」


 いつしか2人の体は海の中にありました。転がるヨーヨーは白い砂を巻き上げながら、どんどんと先へ進んでいきます。ひんやりとした水の感触は肌に伝わりますが、服は濡れて重くはなっていませんし、息もできます。左右は岩にはばまれ、目の前には一本道しかありません。


 「ちーちゃん。暗いところに入るよ」

 「う……うん」


 道の先は洞窟に繋がっていて、その中は一片の光もない暗闇です。そこへ入る前に亜理紗ちゃんは左手をのばして、知恵ちゃんの手をつかみました。洞窟へ入ってしまえば、もう何も周囲の状況は解りません。ただ、亜理紗ちゃんはヨーヨーに行き先をゆだねていて、知恵ちゃんも亜理紗ちゃんの引く手に任せて走り続けます。


 「あっ……出口だ!」


 亜理紗ちゃんが暗闇の先に一筋の光を見つけ、走るスピードを上げて飛び出しました。


 「……ちーちゃん。また変なところに出た」

 「……?」

 

 洞窟から外へ出ると、そこは真っ白な世界でした。白い世界の中央に、大きな門が設置されています。でも、ヨーヨーは門には興味を示さず、全く別の方向にある階段へと向かっていきます。やや息が上がってきた中での階段を見て、やや知恵ちゃんは呼吸を整えました。


 「ヨーヨー、階段あがれるの?」

 「……上がれる!」


 ヨーヨーは知恵ちゃんの心配も知らず、勢いをつけて自力で階段を上がっていきます。そんな動きに感心しつつも、2人は疲れで重たくなってきた足を動かしています。


 階段の上には扉がありました。すでに扉は開いていて、亜理紗ちゃんたちが通り過ぎるのを待っていました。扉の先にも異世界が続いており、ドアがたくさんある暗くて不思議な部屋へと繋がっています。知恵ちゃんが疲れているのを見て、亜理紗ちゃんはヨーヨーを少し引いて歩幅をせばめました。


 「アリサちゃん。ど……どっちに行くの?」

 「う~ん……」


 行き先は数多で、たくさんのドアがあります。息を整えながら2人は通路を進んでいきます。通路の壁や天井にあるドアは全て開かれており、それぞれドアの奥には別の景色が続いていました。次、どこへ行くのか。うろうろとヨーヨーは迷った末に、決めたとばかりに通路を奥へ走りだしました。


 「ちーちゃん。あっちだって」

 「あっちなの?」


 通路の一番奥に1つだけ、閉じているドアがありました。ヨーヨーが近づくと、ドアは自動的に開きます。懐かしい光が溢れる世界です。どこか安心感をおぼえながらも、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは光の中へと駆け込みました。


 「……あれ?」

 「……?」


 気がつくと、2人は亜理紗ちゃんの家の前に戻って来ていました。ヨーヨーを見下ろします。すると、その中から何か、細いヒモのような姿の生き物がはい出してきました。


 「あ……もう、ヨーヨー。動かなくなった」 


 細長い生き物は道路の側溝へと消え、中身がなくなったヨーヨーも、もう動かなくなりました。ヨーヨーの糸を巻いて、亜理紗ちゃんは車庫の前に座り込みます。息を整えながら、絵ちゃんも横にしゃがみ込みました。


 時間にすれば、わずかに5分。その短く忙しいお散歩の中で、様々な世界が垣間見えました。今いる世界、行ったことのある世界、まだ行ったことのない世界。それらに想像を膨らませながらも、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんはつぶやきました。


 「楽しかった」

 「疲れた……」


その81へ続く

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