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その78の3『オシャレさんの話』

 スポーツドリンクしか入っていない、青くて爽やかな自動販売機。それにカメラを構えて、亜理紗ちゃんは写真を撮っています。使っているのは、いつものデジタルカメラではなく、オモチャのような軽いカメラです。写真を撮るたびにネジのようなものを回して、また写真を撮ってはジージーとネジを巻きます。


 「アリサちゃん。それなに?」

 「インスタントカメラっていうらしいもの」


 ピカピカの自動販売機を撮影して、せっかくなので知恵ちゃんたちの姿も含めて、もう1枚。デジタルカメラではありませんので、撮った写真は確認できません。知恵ちゃんはインスタントカメラを初めて見たので、むしろ自動販売機よりもカメラの方に興味津々です。


 「あとは、どこに行く?」

 「ポイントカードのある自動販売機とか、本の入ってる自動販売機とか」


 桜ちゃんの質問に応じて、亜理紗ちゃんは行き先の候補をいくつか挙げます。ポイントカードのある自動販売機はカードの差込口がついており、亜理紗ちゃんのお財布に入っているカードを入れるとポイントが確認できます。100ポイントたまると景品がもらえるようですが、まだ亜理紗ちゃんの持っているカードは3ポイントです。


 次に『本の入っている自動販売機』を見に行きました。それは、個人商店の戸口付近にあって、新聞が入っている自販機でした。さすがに新聞を買って読みはしませんでしたが、こんなものもあったのかと知恵ちゃんたちは不思議そうに見物しています。


 「この自動販売機は、オシャレな気がする」

 「オシャレなの?」

 

 亜理紗ちゃんは自動販売機の色や形、入っているジュースの見本やポスター、夜も休みなく光っているボタンやギミック、それらが好きなので皆に見てもらいたいのです。ただ、それがオシャレなのかについては、仲のいい知恵ちゃんでも疑問を抱いています。ここまでつきあってくれて亜理紗ちゃんは満足したので、今度は他の人の趣味にお付き合いしたいのです。


 「さくピー。オシャレなところ、知ってる?」

 「オシャレなところって?」

 「誰かに見せたいところ」

 「……特にないけど」

 「ないかな」

 「ないような……気がする」

 「ないか」

 「……あるかも」

 「あるの?」

 「……じゃあ、ありそう」


 どこかへ向かうような、それか行き先を探すような、ゆったりした足取りで桜ちゃんは先頭を歩いていきます。数分後、辿り着いたのは知恵ちゃんの家の近くの川がある場所です。見えているのは川、小さな橋、広がった川、もっと小さな遠くの橋。その向こうは海しかありません。どこからが川で、どこからが海か。その境界線にある景色です。


 「これはオシャレな場所だ」

 「オシャレなんだ……これ」


 亜理紗ちゃんのいうオシャレなところが解らないまま、探り探り案内した桜ちゃんでしたが、ここはオシャレな場所だとお墨付きをいただきました。現在地から海へと視界を通して写真を撮り、今度も知恵ちゃんや桜ちゃんの姿を入れて2枚目。15分ほども川の流れを楽しんで、この場所に飽きてきた凛ちゃんは別の場所へ行こうと提案しました。


 「私、オシャレな場所、知ってるわよ」

 「そうなの?どこ?」

 「こっち!」


 凛ちゃんの案内は公園の方へと向いており、こちらも数分で近所の公園へと到着します。


 「りんりん。どれ?」

 「これよ」


 公園の見どころといえば、中央にある大きな噴水です。今は水も噴き出してはいません。それどころか、今日は水すら溜まっていません。もの悲しい噴水を前に、凛ちゃんは少し困ったようにして、正直に言い訳をしました。


 「ごめん。今日はオシャレじゃないわ」

 「そっか」



その78の4へ続く

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