その78の2『オシャレさんの話』
自動販売機の缶ジュースは120円、ペットボトルのジュースは160円なのですが、ハテナマークの入っている部分だけは100円です。その代わり、何が出てくるかは押してみなければ解りません。言い出し役なので、一番に亜理紗ちゃんが100円玉を用意しました。100円で買える飲み物は他にはないので、入れると1つだけボタンが光ります。
「ううん……届かない」
ハテナマークのボタンは自販機の一番上、一番右にあり、亜理紗ちゃんの背丈では手が届きません。そこで、背の高い桜ちゃんがボタンを押してくれました。ガシャンと音がして、自動販売機の取り出し口にペットボトルが落ちてきます。ジュースを取り出し、購入できたものについて亜理紗ちゃんが報告します。
「ビタミン1発だ!当たり?」
「当たったの?」
100円のハテナマークから、ペットボトルのジュースが出てきたので、亜理紗ちゃんは当たりだと判断しています。言われて知恵ちゃんが自動販売機を見ますが、ビタミン1発は自動販売機に入ってはいないので、本来のお値段は不明です。
「次、ちーちゃんやる?」
「私、最後でいい……」
「じゃあ、私がやるわね!」
凛ちゃんが100円を入れて、また桜ちゃんがボタンを押してあげます。青いパッケージのペットボトルが出てきました。それは本来ならば160円のスポーツドリンクなので、これも60円はお得です。これも見方によっては当たりなのですが、、すると逆に何がハズレなのかと知恵ちゃんは疑問に思っています。
「これ……ハズレはあるの?」
「えっと……ブラックコーヒーとか」
自動販売機のラインナップの中でも、一際の存在感を放つ大きな黒い缶。それを指さし、百合ちゃんはハズレなのではないかとしています。ただ、ボタン押し係の桜ちゃんはブラックコーヒーも飲めるので、その点については賛同しかねる表情です。
「百合。買う?」
「うん」
百合ちゃんと桜ちゃんも買ってみましたが、ペットボトルのお茶が出てきました。ここまでは特に変なものも出てきていないので、知恵ちゃんも不安なく100円玉を自販機に入れました。桜ちゃんがボタンを押します。すると、茶色くて大きなペットボトルが出てきました。
「ちーちゃん。それ、コーラ?」
「コーヒーだ……」
知恵ちゃんは苦いものは得意ではないので、コーヒーには耐えられません。それを見て、凛ちゃんはスポーツドリンクを差し出して提案しました。
「チエきち。交換する?」
「ちーちゃん。こっちととりかえる?」
「大丈夫。家でコーヒー牛乳にする」
「知恵。それ、そもそもミルク入ってるやつぞ」
みんなは交換してくれると言っていますが、知恵ちゃんはコーヒーをカバンにしまいました。それぞれ買ったジュースを飲んでいて、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんにジュースを一口もらっています。
「チエきち!これも飲む?」
「いい……普通のポカリだし」
飲みなれた味が予想の域を出ないので、凛ちゃんのスポーツドリンクは遠慮しました。全員が1本ずつジュースを買い、これでハテナボタンを押すという亜理紗ちゃんの目的は完了です。すると、もう家に帰るのかと、桜ちゃんが亜理紗ちゃんに問いかけています。
「……終わり?」
「あとね。カッコイイ自動販売機があるから、それを見に行くよ」
「……カッコいい自動販売機?」
また亜理紗ちゃんは自作の地図を見ながら移動を始め、今度は5分足らずで目的地へと到着します。そこにあったのは、上から下まで、全て同じスポーツドリンクが入っている販売機であり、販売機の中のポスターも販売機の側面のステッカーも、どれもスポーツドリンクのロゴ。一面そろった青色は見ていて爽快なものです。
「これ、カッコよくない?」
「こんなのあったんだ」
あまり通らない道路にある自販機なので、このようなものがあると知恵ちゃんは初めて知った様子です。せっかくなので、亜理紗ちゃんは1本だけ買って、みんなにちょっとずつジュースをごちそうします。知恵ちゃんまで順番にペットボトルに口をつけて、最後に亜理紗ちゃんは凛ちゃんにジュースを差し出しました。
「りんりん。飲む?」
「……え?」
差し出されたものと同じものを手に持ちながらも、もらうかどうかと迷い迷った末、凛ちゃんは1口だけ頂きました。
その78の3へ続く






