その78の1『オシャレさんの話』
今日は学校がお休みです。友だちと集まってお出かけをする為に、午前10時に公園で集まる約束をしています。家の前で会った亜理紗ちゃんは珍しくスカートをはいていて、くつ下もキャラクターの絵が刺繍されておりカラフルです。そんな女の子らしい格好の亜理紗ちゃんを見て、知恵ちゃんは不思議そうな口調で尋ねました。
「アリサちゃん。どうしたの?」
「みんなでお出かけするって言ったら、お母さんにオシャレをさせられた」
遠出をするわけでもありませんでしたが、数人で出歩くと聞いてお母さんが服を見繕ってくれたようです。知恵ちゃんと家で遊ぶ時はジャージでも許されますが、今日に至っては心なしか亜理紗ちゃんの髪の先までそろって整っています。
「ちーちゃんは、いつも通りだ」
「うん」
知恵ちゃんは普段通り、全体的に色味の薄い服を着ていて、スカートも長めです。ただ、今日は少し陽が出ているので、麦わらボウシをかぶっていました。ボウシはヒモがかけてあるので、風が吹いても飛ばされません。お財布に少しのお金が入っていることを確かめると、待ちあわせの時間に遅れないよう2人は時計を見ながら歩き出しました。
「えっと……今日、桜ちゃんと百合ちゃんが来るんだっけ?」
「あと、りんりんもくる」
「そうなの?」
今日のお出かけは亜理紗ちゃんが主催なので、何をするのか、誰が来るのかを知恵ちゃんは詳しく知りません。ただ、自動販売機を見て回る会とは聞かされており、それだけ聞いてもなお楽しさの伝わらないお出かけです。約束の時間より10分早く公園へ着きましたが、そんな2人よりも先に凛ちゃんが到着していました。
「チエきち。きたわね」
「りんりんは、いつ来たの?」
「私はね。1時間前には来てたわよ」
いつも凛ちゃんは約束の時間より早く来ているものの、今日は普段よりも更に早く到着していました。それだけ遊びに行くのを楽しみにしていたのですが、知恵ちゃんは約束の時間の間際まで家でゆっくりしたい人なので、その気持ちが理解できません。ちゃんと約束より早く来ている凛ちゃんについて、亜理紗ちゃんは素直に感心しています。
「りんりん。それなに?」
「リストバンドよ」
「カッコいいけど、それなんなの?」
「え……それは、知らないけど」
凛ちゃんは腕にリストバンドをつけており、亜理紗ちゃんは見慣れないファッションに注目しています。でも、オシャレでつけてきただけなので、凛ちゃん自身もリストバンドの使い道は知りません。浮かびあがった汗をふいてみましたが、それが正しい使い方なのかはつけている本人にも不明です。そこへ、百合ちゃんと桜ちゃんもやってきました。
「桜ちゃん。私たち最後だ~」
「知恵。ボウシかぶってきたんだ?」
「うん」
百合ちゃんは上下の繋がったワンピースを着ていましたし、桜ちゃんはTシャツとジーンズです。みんなオシャレな服装なので、公園や広場で遊ぶわけではないのだと知恵ちゃんは察しました。みんながそろったところで、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんに行き先を聞いてみました。
「アリサちゃん。どこ行くの?」
「自動販売機」
「……?」
わざわざ自動販売機を見に行くと聞き、知恵ちゃん以外のみんなも疑問の表情です。亜理紗ちゃんはカバンからノートを取り出すと、そこに書いてある地図らしきものを指さしながら歩道を進みます。
「あれだ」
おそば屋さんの前に自動販売機が設置されていて、その前まで来ると亜理紗ちゃんは足を止めました。コーラやスポーツドリンク、コーンポタージュなどなど、様々なジュースが入っていますが、見た目は普通の自動販売機です。
「アリサちゃん。これなの?」
「知恵……あれ」
この自動販売機がなんなのか。知恵ちゃんが亜理紗ちゃんに聞こうとします。自動販売機の右上に1つだけ、ハテナマークのついた缶が入っているのを桜ちゃんは指さしました。そこで改めて、亜理紗ちゃんは本日の企画について口にしました。
「あれ。押してみたいの……みんなで押そう」
その78の2へ続く






