その13の1『料理の話』
知恵ちゃんの学校の給食には月に2回、お米ではなくパンが用意される日があります。パンの日はおかずにシチューがついている為、生徒たちからの楽しみの一つとされていました。
「知恵、ニンジン入れなくていいからね」
「ニンジン、入れるね」
知恵ちゃんが給食当番としてシチューをよそっていて、桜ちゃんは苦手なニンジンをシチューに入れないようお願いしています。ただ、桜ちゃんはお椀に入っていれば何でも残さず食べることを知恵ちゃんは知っているので、遠慮なくニンジンとブロッコリーと鶏肉をバランスよく注ぎ入れました。
「私は少なくていいからね」
「うん」
百合ちゃんは本当に多く食べられないので、知恵ちゃんはお椀の半分くらいを目安にシチューをよそいました。そして、最後に知恵ちゃんは自分の分を用意しましたが、寸胴の底の方には鶏肉ばかりが沈んでいて、不本意ながら知恵ちゃんのお椀には野菜があまり入りませんでした。
先生の合図で『いただきます』をして、みんなはスプーンを手に持ちました。給食の時間は机を六つずつグループごとにくっつけてあるので、知恵ちゃんの隣には前の席の女の子が座っています。隣の女の子はパンをシチューに沈めて、なじませるようにスプーンでかきまぜていました。それを見て、知恵ちゃんは真似しながらも見たままの感想を言いました。
「カレーみたいになってる」
「でも、カレーもシチューも同じでしょ?」
「そうかなぁ」
知恵ちゃんの家ではライスにシチューをかけて食べる習慣がない為、シチューとカレーは別物という認識がありました。メインディッシュであるシチューを食べ終わると、みんなはデザートのババロアを食べ始めました。ババロアは凍った状態で配られていて、シチューを食べ終わった今でもカチカチに固まっています。
今日は病欠の生徒が2人います。その理由から、デザートのババロアが二つ余っていました。それをかけて何人かの生徒がジャンケン勝負へ名乗りを上げていて、それを見て知恵ちゃんの背向かいにいる桜ちゃんが聞きました。
「知恵はババロアいいの?もらってきてあげよっか?」
「プリンなら欲しかったけど」
「ババロアとプリンって違うの?」
「ちがうと思う……」
給食の時間が終わり、休み時間をはさんで午後の授業が始まります。体育は鉄棒のテストが行われ、その長い待ち時間に知恵ちゃんはプリンとババロアの違いについて考えていました。
放課後、いつものように亜理紗ちゃんが迎えに来て、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんと一緒に家へと帰りました。すると、家の前で別れる際に亜理紗ちゃんが知恵ちゃんを家に誘いました。
「ちーちゃん。お母さんがケーキあるから、食べに来ていいって言ってたけど来る?」
「いいの?」
「いいよ」
亜理紗ちゃんと約束をしてから家に帰り、知恵ちゃんはオモチャやキーホルダーなどを少しだけカバンに入れて亜理紗ちゃんの家へ向かいました。知恵ちゃんが亜理紗ちゃんの家のインターホンを鳴らし、画面越しに知恵ちゃんを確認してから亜理紗ちゃんが玄関のドアを開きます。
「ちーちゃん。ダメだ。お母さん留守だった」
「じゃあ、帰ってくるまで遊んでていい?」
「うん」
亜理紗ちゃんが冷蔵庫の中を確認していますが、どこにもケーキは見当たりません。そのまま、2人は亜理紗ちゃんの部屋へと行き、知恵ちゃんはカバンに入れてきたオモチャを取り出しました。
「ちーちゃん。それなに?」
「食べ物の消しゴムを持ってきた」
「なにそれ!いいなぁ」
知恵ちゃんの持ってきたオモチャは野菜の形をした小さな消しゴムで、ニンジンやイチゴなど様々な種類のものがあります。その中の一つを持ち上げて、亜理紗ちゃんは何秒か眺めてから言いました。
「……はくさいもある!」
「ほうれんそうだと思う……」
その13の2へ続く






