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その77の4『高いところの話』

 「……あれ?」

 

 屋根裏部屋の階段を上がると、その上にも同じような屋根裏部屋があります。その屋根裏部屋にも上り階段があり、更に上にも屋根裏部屋があるのを亜理紗ちゃんは確かめました。どれも同じ部屋のようにも見えますが、窓の外にある風景だけは、やや異なる点を含んでいます。


 「高くなった?」

 「ちーちゃんの家が下に見えてる」


 上がった先の屋根裏部屋にも小さな窓があり、そこから見える景色は下の階の屋根裏部屋よりも高所に位置しています。知恵ちゃんの家の屋根の色や形が、こちらの窓からはハッキリと解ります。まだまだ屋根裏部屋は上の階へと続いています。もっと高いところから世界を見たいとして、亜理紗ちゃんは次々に階段をのぼっていきます。


 「あんまり上がると、戻るの大変だよ?」

 「そっか。ちょっとジュース飲みに行こう」


 知恵ちゃんの注意を受けながらも、亜理紗ちゃんは早く上に行きたい気持ちでいっぱいです。もう5つは屋根裏部屋をのぼったはずでしたが、ジュースやお菓子の置いてある部屋は1つ下の階にありました。ロフトから降りてお菓子とジュースを口に入れ、また屋根裏部屋の階段を上がります。


 「ちーちゃん。もうさっきの高さの場所だ」

 「のぼったところは、もう戻れないのかな」


 窓の外をながめます。2人が行けるのは、最高到達地点の階と、元のロフト。その途中の屋根裏部屋はなくなってしまいました。あとは登れば登っただけ、小さな窓から見える景色の中の、家が、木が、道路が、どんどんと遠ざかっていくのです。もう今となっては、街はミニチュアで作ったかのように小さくなっていて、徐々に白いもやが街にかぶります。


 「……もう、ほとんど見えない」

 「……ちーちゃん。上だ」


 2人が上がった屋根裏部屋の数は30を超えていて、窓の外は雲がかかっています。窓の下にある風景が見えなくなって、亜理紗ちゃんの興味は空へと向きました。まだまだ遠い一番星。でも、わずかに、それは空の彼方で存在感を増しているのが見てとれます。お菓子の置いてある部屋まで時計を見に戻り、どこまで行けるかと亜理紗ちゃんは心配しています。


 「これ、明日になったら、もうなくなってるかな?」

 「階段、なくなってるかも」


 登った屋根裏部屋の数が50を超えると、次第に屋根裏部屋は白みがかって、そんな部屋の中とは裏返し、窓の外には夕闇が迫ります。雲の底に家々の灯りが点き、空にも二番星、三番星が輝きました。窓の上にも下にも光が生まれ、まるで宇宙の真ん中にいるようです。


 「見えてきた。あれだ」


 1つ1つ、窓の外を確認していては時間がありません。一番星を間近で見たいという思いから、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは階段を登っていきます。もう、いくつの屋根裏部屋を通り過ぎたでしょうか。途中までは知恵ちゃんも数えていましたが、70を超えると足の疲れと共に忘れてしまいました。


 「アリサちゃん……もうダメ」

 「私も疲れた……」


 階段を登って登って、登って登って、亜理紗ちゃんも知恵ちゃんも息をきらせています。そろそろ一番星のある場所へ到達したのではないかと、亜理紗ちゃんは窓の外をのぞきます。すると、窓の近くを何か、虹色に光るものが通り抜けていきました。


 「ちーちゃん!一番星だ!」


 一番星はグルグルと回転しながら、光を大小させながら、勢いよく下へと落ちていきます。そして、巨大な光の輪が浮いている場所で、グッとスピードを緩めてストップしました。一番星に続いて、やや小さめの星が窓のそばを通過し、また輪の近くでストップします。


 「ちーちゃん。あれが2着だ。3着も来た」

 

 一番星、二番星、三番星がゴールに到着しました。その後も、雨のように流星が降り、窓の外には星空が広がっていきます。それを見つめている内、下の階から亜理紗ちゃんのお母さんの声が聞こえてきました。


 「知恵ちゃん。そろそろ帰る時間だよ」

 

 声を聞いて振り返り、目を戻した時には、もう窓の外には、いつもの街並みが広がっていました。2人がいる場所も最初のロフトへと戻されていて、すでに登り階段もありません。亜理紗ちゃんと知恵ちゃんはロフトを降り、お母さんと一緒に玄関へと向かいました。


 「お母さん。空、見ていい?」

 「いいけど、どうしたの?」


 家の前で、知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは星空を見上げました。一番星も二番星も、三番星も、地上から遠目に見て解るくらい、ほこらしく輝いていました。また明日になれば、星たちは帰っていき、夜になったらやってきます。


 「明日は、誰が一番星かな」

 「どうだろう」


 紺色の空には今も、1つ1つと星が到着しています。今日の夜空と、明日の夜に想いをはせる2人の頭上で、星たちは意気込むように、キラキラと空の暗闇を照らしているのでした。


その78へ続く

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