その77の2『高いところの話』
亜理紗ちゃんの応援を受け、知恵ちゃんは諦めかけたパズルのクリアを目指しています。正解に近づいているのか、遠ざかっているのかも解らずにいますが、とにかく手を動かしていると自信はあとからついてきます。
「できない……」
「がんばれ……がんばれ……」
解けないパズルに泣き言を続けていた知恵ちゃんでしたが、それは本人が思ったよりも意外と早く、10分ほどで完成しました。知恵ちゃんは大きな息を吐き出してはいるものの、パズルを完成させたことについては嬉しいようで、それを窓際で太陽に透かして見上げていました。
「アリサちゃん。完成した」
「やった」
「……あれ?」
キレイに色のそろったパズルと、太陽光のカーテン。その向こう側、青空の中に、一粒の輝きがあります。それは亜理紗ちゃんが見つけたものと同じ光です。
「……一番星だ」
「やっぱりあった?」
ベッドの上の知恵ちゃんに寄りそって、亜理紗ちゃんも一番星を見上げます。2人とも、それを星だと思って目に映していたのですが、じっと観察してみれば、少しずつ動いているようにもうかがえます。輝きに濃淡をつけているとも取れます。星が出てくるには、時刻は早くもあります。あれは、本当はなんなのか。疑いの視線をのばします。
「アリサちゃん。あれ……動いてない?」
「……そう?」
パチパチとマバタキをしながらも星を凝視し、やや考えた末に亜理紗ちゃんは語り出しました。
「……ちーちゃん。壁についた小さい点とか、じっと見てると、動いてるみたいな時ない?」
「ない。ゆうれいじゃないの?」
「……」
家に幽霊がいるのではないかと不意に言われてしまい、亜理紗ちゃんは身震いしながら知恵ちゃんに抱き着きました。心霊現象が怖い亜理紗ちゃんとは違って、知恵ちゃんは空に光りながら浮いているものの方を気にしています。
「ちーちゃん……もう今日、寝れない……」
「……じゃあ、見に行く?壁の点」
「……」
おどかしてしまったのは知恵ちゃんの方なので、亜理紗ちゃんの家の点が幽霊でないことを確かめに行こうかともちかけます。このままでは夜に怖くて眠れず、亜理紗ちゃんは寝不足になってしまいかねません。不安を解決すべく、亜理紗ちゃんは一足先に家へと帰り、知恵ちゃんをまねいていいかお母さんに聞いてきます。
「……入っていいって」
「オジャマします」
亜理紗ちゃんの家の2階にある部屋。そこから上がったロフトの壁に、ぽつんと色濃く黒い点がついています。木目にしては年輪にそっておらず、まるでペンの先を落としたような点です。しゃがみこんで、まばたきもせずに焦点をあわせ続けます。
「……」
点は動きません。知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは顔を見合わせ、幽霊ではないことを確信しました。
「……」
では、虫なのではないか。そわそわと、亜理紗ちゃんは壁についた黒い点を指でこすってみます。
「……」
触ると壁の点はぼやけて消えて、亜理紗ちゃんの指には黒い汚れが残りました。
「……」
黒ずんだ亜理紗ちゃんの指と、キレイになった壁を見て、知恵ちゃんはクチビルをアヒルのクチバシのようにしていました。
その77の3へ続く






