その77の1『高いところの話』
知恵ちゃんの部屋の窓ガラスを通して、亜理紗ちゃんが遠い景色を見つめています。まるで空を目指すかのようにのびる建物たちが、街並みとして地上に低く並んでいます。そのまま展望を空へと向けます。青白い空の中に1つ、白く光るものが浮かんでいるのを発見しました。
「アリサちゃん。ごめん。続きやろう」
手を洗いに部屋を出ていた知恵ちゃんが戻ってきました。テーブルの上にはパズルのオモチャが2つ置かれていて、それはタル状の入れ物に小さなボールがたくさん入っているものです。入れ物をカシャカシャとひねって動かし、中に入っているボールを転がしていきます。ボールを色ごとに全て、縦一列にそろえられればクリアです。
「ちーちゃん。どれくらいそろってる?」
「オレンジだけそろった」
パズルは入れ物も透明で、ボールも半透明でいてキラキラしています。2つ同じパズルゲームがあったので、知恵ちゃんと亜理紗ちゃんで、どちらが早くパズルを完成させられるか競争している途中なのです。知恵ちゃんのパズルは一色だけはそろっていますが、亜理紗ちゃんの方はあまりそろっていません。
「……これ、ちゃんと全部、そろうのかな?」
「そういうゲームだし……説明書に書いてあったし」
このパズルに2人は1時間ほども手こずっていて、亜理紗ちゃんは遊び方を間違えているのではないかと疑っています。知恵ちゃんはパズルの手を止めて、説明書を再読しています。亜理紗ちゃんは窓から差し込む光の中へ、パズルを透かして答えを探しています。
「そうだ。ちーちゃん。一番星だ」
「一番星?」
空に一番星を見つけたのを思い出して、亜理紗ちゃんは窓ガラス越しに空へと指を向けました。でも、もう空には光っているものはありません。雲は風を受けて動いているので、その中に隠れてしまったようにも見えます。
「……あれ?なくなった」
「飛行機の光だったんじゃないの?」
「飛行機かな……」
さっきの光は星だったのか、飛行機と共に流れて消えてしまったのか、それはもう解りません。雲は空を消しゴムでこすったように広がり、でも飛行機雲らしき長い雲はありません。改めて、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんはパズルのゲームに気持ちを戻します。
「……ねえ。ちーちゃん」
「なに?」
「一番星ってさ」
亜理紗ちゃんのパズルも一列だけ色はそろいましたが、他の列はてんでバラバラです。そろった列をくずしてパズルの再構築をはかりつつ、亜理紗ちゃんは片手間に雑談を始めます。
「一番星が、一番早く地球に来たってことなのかな?」
「……え?」
亜理紗ちゃんがパズルとは別に星に対しての予想を立てていて、それを聞いた知恵ちゃんは疑問の表情を浮かべます。自然と、パズルを動かす手も止まっていました。詳しく話を聞きたいとばかり、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんに聞き返しました。
「……え?なんで?」
「お昼は見えてないから、家に帰ってるでしょ?夜になったら、地球に来るんでしょ?」
「……そうなのかな」
星が朝と共に地球から帰り、夜が近づくとレースをするように飛んでくる。そんな様子を知恵ちゃんは想像して、違うような気はしながらも、実際はどうなのか上手くは説明できずにいます。
「あ……できた」
「……え?」
知恵ちゃんが考え込んでいる間にも、亜理紗ちゃんはパズルを完成させていました。それを見て、知恵ちゃんはパズルが入っていた箱を開けました。
「おめでとう。アリサちゃん。これでパズルはおしまい」
そう言うと、知恵ちゃんは作りかけのパズルを箱の中へとしまってしまいます。亜理紗ちゃんは、そんな知恵ちゃんの手に自分の手を乗せて、何も言わずに首を横に振りました。
その77の2へ続く






