表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
253/367

その76の1『落とし穴の話』

 学校の帰り道、今日は天気が非常によく、太陽は闇を作るまいとサンサンに輝いています。気温は高くないので体は熱くありませんが、天の光はコンクリートに照り返して、辺りをぼやりと白く染めています。


 「まぶしい……」

 「ちーちゃん。これだ。ランドセルぼうし」


 亜理紗ちゃんはランドセルを頭の上に乗せて、サンバイザー代わりにして太陽光をさえぎっています。そちらのマネをしてみると、太陽の直接攻撃は避けられ、ひとまずのまぶしさはおさえることに成功します。そうして通学路を半分ほど進んだ先で、光と影、白と黒の点在している道を見ながら、亜理紗ちゃんは歩道の日向へと出ました。


 「ここから家まで、影の中を歩いちゃダメゲームしよう」

 「……?」


 亜理紗ちゃんの考えついたゲームにあわせて、知恵ちゃんもブロック塀の影から出て日向を歩きます。ゲームとは言っていますが、通路は明らかに日陰よりも日向の方が多く、ただ明るい場所を進んでいけばクリアできる簡単な遊びです。


 「なんで光じゃなくて、影の方を歩いちゃダメなの?」

 「影は落とし穴だから、歩くと下に大変なものがある」

 「大変なものって?」

 「み……水たまりとか」


 即興で作った遊びなので、そこまで深くは設定ができていません。家の影を避けて、木の影をすり抜けて、一筋でも光があれば進んでいけます。細い光は足を縦に並べて、ゆっくりと落ちないように歩きます。


 「……」


 もう自分たちの家は見えています。ですが、その手前の道路には広い影が横たわっていて、影の切れ目も見当たりません。影の前で右往左往する亜理紗ちゃんを知恵ちゃんはながめています。


 「アリサちゃん。どうするの?」

 「う~ん……」


 うなりながらも、亜理紗ちゃんは家へと続く道をスルーして、別の角を曲がっていきます。ここがダメならばと、別の道から自宅の前へ出ようと試みます。


 「……こっちもダメみたいだ」


 家の近くにある道を遠回りをして、角を曲がってグルリといけば、1周まわって家の前に出ます。でも、そちらも影が通せんぼしており、それより先には進むことができません。こちらの影は先程のものよりも濃く、かつ広くて、渡るのは難しそうです。


 「ちーちゃん……戻ります」

 「戻るの?」


 他に道はないとして、亜理紗ちゃんは家が見える場所まで戻ってきました。知恵ちゃんとしてはゲームのクリアに執着がないので、影の中を通って帰っても問題はありません。影を見つめている亜理紗ちゃんの後ろ姿、そちらを知恵ちゃんは眠そうに見守っています。


 「……」


 きょろきょろと周囲の安全を確認し、亜理紗ちゃんは車や自転車、歩行者の有無を確かめます。この辺りは人通りは少なく、何かにぶつかる心配はなさそうです。ランドセルを背負い直して、ぴょんぴょん飛び跳ねながら影の先を見据えます。


 「とぶ」

 「届かないでしょ……」


 亜理紗ちゃんは運動神経こそ悪くはありませんが、影の広さは4メートルほどもあります。しかし、これで影を突破できなければ亜理紗ちゃんも諦めるだろうと、知恵ちゃんは光の中で目を細めて、事の行く末を静かに見届けます。


 「……えいっ!」

 

 光の中で助走をつけて、勢いよく影の中へと飛び込みます。そのまま、亜理紗ちゃんの姿は影の中に落ちて、どこかへスッと消えていきました。


 「……?」


 目をこすって、影の向こうにある日向へ視線を向け、それからしゃがみ込んで知恵ちゃんは影の中へ目を向けます。そんな知恵ちゃんの肩に、誰かの指が触れます。


 「ひゃ……うわあ!」

 「……わああ!」


 後ろを振り向きます。そこには亜理紗ちゃんがいて、知恵ちゃんのビックリした声を聞いて、同じくらいの驚いた声を返していました。


 「あ……あれ?アリサちゃん……どうしたの?」

 「……戻された」

 「……戻された?」



その76の2へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ