その75の2『磁石の話』
知恵ちゃんはシフォンケーキをおかわりしましたが、亜理紗ちゃんは大きな一片だけ食べて満足しました。甘くなった口の中へジュースをそそぎながらも、まだ亜理紗ちゃんは冷蔵庫についた磁石をながめています。
「ちーちゃん。じしゃくって持ってる?」
「持ってない」
「遊ぶの?たしか予備があったと思うけど」
知恵ちゃんのお母さんは電話機の乗っているタナを開き、丸いマグネットを3つ取り出しました。赤と青と黄色。様々な色のプラスチックに包まれたマグネットを裏返せば、その中に入っている黒い磁石が確認できます。知恵ちゃんがケーキを食べ終わるのを待ち、マグネットを借りて2人は部屋を出ました。
「ちーちゃんのお母さん。ケーキ、おいしかったです」
「おいしかった」
「そう?お土産に包んでおくから、あとで持って帰ってね」
リビングを出ると、すぐに亜理紗ちゃんは廊下の壁へ、マグネットを押し当ててみました。ですが、そこにマグネットはくっつきません。冷蔵庫のドアにはくっついたので、それをヒントにしながら、くっつく場所を探してみます。
「なんでくっつかないんだろう」
「さむいとくっつくんじゃないの?」
「そっか!」
知恵ちゃんの予想を聞いて、亜理紗ちゃんは、ひんやりした窓ガラスにマグネットを当ててみました。それでもくっつきません。さらに思いついた様子で、亜理紗ちゃんはマグネット同士をあわせてみました。
「あれ……磁石どうしでもくっつかない」
「冷蔵庫にしかくっつかないのかな」
冷蔵庫のドアと質感の似ている物を探しながら、そのまま2人は知恵ちゃんの部屋へと移動します。それぞれがマグネットを手にして、部屋にあるものへ手あたりしだいに近づけて実験しています。
「……アリサちゃん。ここ、くっつくよ」
「どれ?」
知恵ちゃんの部屋には金属製の棚があり、そこにだけは磁石がくっつきます。それを見て、亜理紗ちゃんはキラキラしているものであれば、くっつくのではないかと推理しました。
「銀色にはくっつく。だったら……あ!ちーちゃん、あれ持ってる?」
「あれ?」
「オリガミ」
知恵ちゃんに銀色のオリガミを借りて、ワクワクながらに亜理紗ちゃんがマグネットを押しつけてみます。でも、まったくくっつきません。あえなく断念して、銀色のオリガミをお返しします。念のために金色のオリガミも試してみますが、そちらも同じくくっつきませんでした。
「色じゃないみたい。きっと、鉄っぽいとくっつく」
「鉄のもの……あっ。あれかもしれない」
知恵ちゃんは鉄っぽいものに思い当り、部屋を出てキッチンへと向かいます。そして、空き缶を2つ持って部屋へと戻ると、それに早速ながらマグネットをつけてみました。
「あれ?コーヒーの缶はつくのに、ジュースのはつかない」
「磁石はコーヒーが好きなのかな」
コーヒーの空き缶にはマグネットはくっつきます。でも、コーラの缶にはくっつきません。作られている素材が違うのでしょうか。中身の味に好みがあるのでしょうか。ますます2人はマグネットのくっつく仕組みが解らなくなってきました。
「……ちーちゃん。あれは?」
「どれ?」
いつの間にか、知恵ちゃんの部屋のベッドには銀色の丸い石が2つ置いてあります。それに磁石をくっつけてみると、ピッと強くくっつきました。亜理紗ちゃんは新しい磁石を見つけて嬉しそうですが、その石に知恵ちゃんは見覚えがなく、いつから部屋にあったのかと首をひねっています。
「……ちーちゃん。これ、なんなの?」
「わかんない」
「……そうだ。ヒモある?」
「……?」
ベッドの上にあったキレイな石は、真ん中に丸い穴があります。それにリボンを通してはしっこを玉結びにします。簡単なネックレスを作って、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんの首にかけてあげました。
「こうしたら、キレイじゃない?」
「ありがとう……?」
亜理紗ちゃんが自分の首にも、石のネックレスをかけてみます。おそろいの首飾りを見ている内に、なぜか知恵ちゃんは亜理紗ちゃんにギュッと抱き着いていました。
「……どうしたの?ちーちゃん」
「……???」
その75の3へ続きます






