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その74の3『大スクープの話』

 異世界へのトビラは開いたままにして、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんはベッドに寝転んで仲良くマンガを読んでいます。新しく買ったばかりの雑誌なので知恵ちゃんも内容を知らず、亜理紗ちゃんとおしゃべりをしながらページをめくっています。

 

 「あれ……アリサちゃん。おなかすいたの?」

 「なんで?」

 「おなか、ならなかった?」


 亜理紗ちゃんのおなかは鳴っていませんし、知恵ちゃんもおせんべいを2枚もいただいたばかりです。すると、どこから出てきた音なのか。2人は押し入れの中にある異世界空間へと目を向けました。


 「おなかすいたのかな?」

 「ん?なにが?」

 「あれ」


 亜理紗ちゃんはおせんべいを小さく割って、押し入れの前に差し出してみました。しかし、何も出てはきません。おせんべいを食べながらテーブルの近くへと戻り、ちょっとだけ異世界を見つめた後、亜理紗ちゃんはお菓子を置いてベッドに腰掛けました。


 「う~ん……あれ、なんなんだろう」

 「意味はないんじゃないの?」

 「意味はないのか」

 

 意味はないのに、誰の頼みでもなく、何が起きるでもなく、昨日からずっと異世界が部屋に存在しています。それに亜理紗ちゃんは納得がいかず、気になって気になって仕方なくなってしまったので、気持ちを整理するためにふすまを閉めてみました。


 「ちーちゃん……まだあるかな。あれ」

 「どうだろう」


 まだ、フスマの向こうには異世界があるかもしれません。もうないかもしれません。閉じたら閉じたで気になり始めたので、やっぱり押し入れは開いておくことにしました。今日は良くも悪くも何も起こらぬまま、知恵ちゃんは帰り支度を始める時間となりました。


 「もう、閉じておけば、勝手に消えるんじゃないの?」

 「でも……う~ん」


 たまに音がするくらいで、特に面白くもない空間です。ただ、それが意味もなく押し入れの中に広がっているものなのか、何か意味を持って2人の前に現れたのか、それを思うと亜理紗ちゃんは諦めきれません。あと1日だけ、経過を見守ってみようと決めました。


 次の日の朝も、亜理紗ちゃんは不思議な世界に何かを見たとは言いませんでした。やはり、あの世界には何もないのかもしれません。そのような亜理紗ちゃんの気持ちが、異空間に読まれているのかもしれません。学校へ向かいながらも、知恵ちゃんは異世界の様子を亜理紗ちゃんに聞いています。


 「昨日は?」

 「何もなかった」


 学校へ行く途中の道で、ふと空を見上げてみます。今日の空も曇り空です。雨が降るかもしれません。午後には晴れるかもしれません。このまま、ずっと曇り空でしょうか。亜理紗ちゃんは歩く足を止めて、腕を組んで考え事を始めます。


 「アリサちゃん。今日も、何もなさそう?」

 「え?」


 急に知恵ちゃんから聞かれて、亜理紗ちゃんは驚いた顔で知恵ちゃんの顔を見ます。口をへの字にして悩んだ末、何かありそうでなさそうな今日に、一抹の希望を残すと決めました。


 「……あるかも」

 「今日も、遊びに行っていい?」

 「いいよ」


 そう約束した通り、学校が終わった後、また知恵ちゃんは亜理紗ちゃんの部屋へとお邪魔しました。そして、いつもと同じように、何気ない時間を過ごしていきます。カードのゲームで遊びながら、亜理紗ちゃんは押し入れの中へも注意を配っています。


 「……」


 今日も異世界には、何も見えてはきません。空に夕陽にかかり始めた頃、知恵ちゃんはお菓子を食べてから立ち上がりました。


 「……手、洗ってきていい?」

 「いいよ」


 知恵ちゃんは亜理紗ちゃんの部屋を出て、ろうかを通って洗面所へと向かいます。手を洗って亜理紗ちゃんの部屋へと戻る途中、カメラを持った亜理紗ちゃんが駆け足でやってきました。


 「ちーちゃん!」

 「どうしたの?」

 「出た!なにか!」

 「……?」


 うす暗いろうかの途中で立ち止まって、亜理紗ちゃんの持ってきたカメラの画面を確認します。押し入れの中に写っているのは、見慣れた白と黒と、灰色の世界です。どこに何が出たのか、知恵ちゃんは疑問の表情を浮かべています。


 「……どれ?」

 「……あれ?」


 亜理紗ちゃんが見た物を、知恵ちゃんは写真の中に見つけられません。写真に撮ったものが消えてしまったのか、撮れていなかったのかは亜理紗ちゃんにも解りません。


 「ほんとうに何か出たの?」

 「出たんだけどなぁ……」


 部屋に戻ると、もう押し入れの中の異世界は消えていました。改めて、亜理紗ちゃんの撮った写真をじっと観察してみます。一見、何の変哲もない異世界の写真。その隅の方に、ぼやっとではありますが白い影が写っています。でも、それには2人とも気がつきませんでした。


その75へ続く

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