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その74の1『大スクープの話』

 「……」


 押し入れを開くと、そこには不思議な世界が広がっていました。ただ白くて、黒くて、その間は灰色。そんな味気ない色味の世界が、オモチャや布団の代わりに押し入れの中に詰まっています。


 「ちーちゃん。こっちきて」

 「なに?」


 今日の知恵ちゃんは亜理紗ちゃんの部屋へと遊びに来ており、一緒に遊ぶボードゲームを取り出そうと、亜理紗ちゃんは部屋の押し入れを開いたところでした。知恵ちゃんも亜理紗ちゃんに呼ばれ、見知らぬ世界を横からのぞきます。ぐわぐわと世界は淡泊な色を流し続けていて、白を見ているかと思えば黒に変わっています。黒かと思えば白色に変化しています。


 「……入れるかな?」

 「入るの?」


 亜理紗ちゃんは指先を持ち上げ、敷居の上を通そうとします。でも、亜理紗ちゃんの部屋と異世界の境界線で、ピタッと指は止められてしまいました。手のひらをつけて押してみても、うんともすんともいいません。ただ、異世界は侵入をこばんで、無機質な光景を知恵ちゃんと亜理紗ちゃんに見せるだけです。


 「……ちーちゃん。オモチャが取り出せなくなっちゃったんだけど」

 「う~ん……逆を開いてみたら?」

 「そっか。それだ」


 一旦、押し入れのふすまを閉めて、対となっている隣のふすまを開きます。そちらの中にはフトンや毛布、ダンボールに入ったオモチャなどが入っていました。お目当てのボードゲームを取り出してテーブルに置きます。亜理紗ちゃんは先程の異空間が気になるようで、押し入れを開いて向こう側を盗み見ています。


 「……アリサちゃん。何かあった?」

 「……ない」


 確かに押し入れの中には異世界があって、黒と白と灰色の色彩の流れから、限りない遠近感も、うかがい知れます。なのですが、ずっと見ていても何が起こる訳でもなく、色の流れに変化もなく、生き物の影すらありません。


 「ちーちゃん。開けといていい?」

 「いいけど……」


 じっと観察していても、変な世界には何も起こりません。亜理紗ちゃんはボードゲームのコマを並べ始め、知恵ちゃんも説明書に描かれている絵からゲームの内容を読み解こうとしています。その間、その間にも、亜理紗ちゃんは1分おきに振り返っては、押し入れの向こう側にある世界を見張っています。


 「場所、かわる?」

 「いいの?」


 亜理紗ちゃんの首が疲れてしまうと思い、知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは席を交換します。ここからならば、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんだけを見越して、押し入れの中の異世界を観察することができます。


 「ちーちゃん。これ、点数を集めるゲームだっけ?」

 「大体、そんな感じ」


 今日のゲームはスゴロクの要領でコマを進め、とまったマスのイベントを通して点数を増やしていく内容のものです。先攻は知恵ちゃん、後攻は亜理紗ちゃんでゲームを始めます。


 「私、ここで10点」

 「ちーちゃん。強い」


 知恵ちゃんはオモチャのコインをもらい受け、キレイに重ねて自分の前に置きます。まだ亜理紗ちゃんの点数は1点です。サイコロを振ってみますが、亜理紗ちゃんは点数をゲットできませんでした。


 「おしい……」

 「私、また2点」

 「強い。ちーちゃん」


 チラチラと異世界を気にしていた亜理紗ちゃんも、次第にゲームの方に興味が持っていかれます。そうして10分ほどたった頃になり、どこからかシュシュンと音が聞こえてきました。


 「……むむ!」

 「……?」


 見逃したかとばかりに、亜理紗ちゃんは急いで押し入れの方へと目を向けます。しかし、知恵ちゃんには音は聞こえなかったらしく、不思議そうに亜理紗ちゃんの顔を見つめています。


 「なにかあったの?」

 「……」


 亜理紗ちゃんは背筋を伸ばして数秒、押し入れの中へ厳しい視線を差し込みます。そして、真剣な表情で知恵ちゃんの顔を見据えると、さっきの質問へと短く返答しました。


 「……別にない」

 「……そっか」


その74の2へ続く

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