その71の3『炭酸水の話』
かき氷に使うメロンシロップをコップに入れて、炭酸水をそそぎ込めばメロンソーダの完成です。同じ要領でイチゴシロップを使えばイチゴソーダも作れますが、今日は知恵ちゃんも亜理紗ちゃんもメロンソーダを作る事にしました。早く作りたい気持ちの知恵ちゃんですが、並んでいる色とりどりのコップにも興味をひかれました。
「たくさんコップがある」
「どれで作ったらキレイかな」
コップはシンプルな形をした透明なものや、少しずつ色の変わっているグラデーションがついているもの、キラキラと星形の模様が散りばめられたものまで様々です。その中でもビールジョッキが一際の存在感を放っており、知恵ちゃんは見慣れない大きなコップを見つめています。
「これとか、大きくていい……」
「おかわりできるからね……」
飲む量を考えればビールジョッキが最適ですが、おかわりをしてもいいと亜理紗ちゃんのお母さんは言ってくれたので、知恵ちゃんもキレイなコップを選んでメロンソーダを作ろうと考えを改めました。
「お母さん。私、これで作る」
「私は、これにする」
亜理紗ちゃんは雪の結晶の模様が入った、すりガラス風の白いコップを手に取ります。知恵ちゃんが選んだコップはカクカクとした造形でいて、透明度の高い青色をしたものでした。亜理紗ちゃんのお母さんがコップへと氷を入れてくれて、メロンのシロップは知恵ちゃんと亜理紗ちゃんが好きな分だけ入れます。
「……アリサちゃん。入れすぎじゃない?」
「入れすぎたか」
氷でカサが増す都合上、どのくらい入れたら適量なのかをはかるのは難しいところです。亜理紗ちゃんはコップの3割程度、知恵ちゃんは2割くらいシロップを注ぎ込みました。炭酸水を流し込めば、氷の割れるパキパキとした音と、炭酸のパチパチとした音が重なります。真っ白な泡がコップの中で弾けて、次第に緑色の液体が姿を現します。
「ほんとにメロンソーダができた」
「ちーちゃんの、ちょっとうすくない?」
青色のグラスに緑色のメロンソーダが透けて、高級感のある輝きをコップの中に閉じ込めています。亜理紗ちゃんのコップは白色に緑色が溶け、雪の中にメロンソーダが沈んだように見えます。もらったストローで氷をかきまぜて、2人はメロンソーダを吸い込みました。
「……うすかった」
「こっちはちょうどいい」
知恵ちゃんの方はシロップが少し足りず、メロンソーダの甘い味がしません。シロップを増やしてみると、色も濃くなっていい具合になりました。2人ともノドが乾いているのでジュースを飲みたいのですが、模様のついたコップに入ったメロンソーダは芸術品のようにキレイで、しばし楽しむようにして氷をかきまぜていました。
「……そうだ。お母さん、グミもらっていい?」
「グミ?何に使うの?」
もっとメロンソーダをかざりつけたいと考え、亜理紗ちゃんはグミの袋をもらってきました。果物の形をしたピンクのグミとオレンジのグミを袋から取り出して、静かにメロンソーダの中へと入れてみます。グミにメロンの色が染みこんで、炭酸の泡がからみついていきます。
「キレイかな?」
「うん」
緑色のメロンソーダの中をカラフルなグミが泳ぎ、氷で光が屈折してグミは大きさも違って見えます。見た目は不思議でキレイなのですが、知恵ちゃんはメロンソーダを飲みつつも、亜理紗ちゃんのコップに入ったグミの行く末を気にしています。
「……どうやって食べるの?」
「……ううん」
亜理紗ちゃんは息を吸い込みながらストローの先を動かして、グミの1つを吸いつけて持ち上げました。メロンソーダの海からグミを救出しますが、息を吸い込みながらではグミを食べられません。
「それからどうするの?」
「……」
亜理紗ちゃんはグミをメロンソーダへと戻し、お母さんに言ってスプーンをもらってきました。
その71の4へ続く






