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その71の2『炭酸水の話』

 「知恵ちゃん。そんなに水を飲むと、給食が食べれなくなるよ?」

 「うん。もう飲まない」 


 体育の授業が終わって校舎へ入り、のどの乾きに任せて知恵ちゃんは水を飲んでいました。ただ、次の授業が終われば給食の時間であり、牛乳が待っていると考えれば水をのみたい衝動も抑えられます。そんな注意を百合ちゃんから受けつつ、知恵ちゃんはハンカチで顔をふいています。


 「あ……金魚だ」

 「わあ。金魚だ……怖い」


 教室へ向かう途中のろうかには水そうがあって、中に大きな金魚が泳いでいます。百合ちゃんは金魚が怖いので、足早に通り過ぎてしまいます。知恵ちゃんと桜ちゃんは水そうの中の金魚と、ぶくぶく沸き上がっている空気の泡を見つめています。今日の水そうは誰かが掃除したようで、それなりにキレイです。


 「知恵。メロンソーダって好き?」

 「メロンソーダ好き」

 

 短い会話をすませて、2人も百合ちゃんと一緒に教室へ向かいました。その後、コケがかった水そうの水と、金魚用の空気ポンプを見て、桜ちゃんがメロンソーダを連想したのだと知恵ちゃんは気づきました。


 窓を開いてカーテンを閉めた教室は熱気もこもらず、窓の近くの生徒がカーテンにはためかれている以外は問題もありません。給食の牛乳も冷えていて、ビンなので口当たりもよく、炎天下の記憶が知恵ちゃんの頭から段々と消えていきます。


 「あつい……」

 「あついね……」

 「あついよ……」


 全ての授業が終わり、涼しかった学校から外へ出ます。その瞬間にも、空から降り注ぐ太陽光が体を包み、コンクリートで照り返した熱が足元からも昇ってきます。友だちの亜理紗ちゃんや百合ちゃん、桜ちゃんも口をそろえて暑さを訴えています。


 「……じゃあね。知恵」

 「うん」


 桜ちゃんと百合ちゃんとは校舎の前で別れ、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんと通学路へ足を進めます。あまりの暑さに汗も止まらず、今日は亜理紗ちゃんですら無口になってしまいます。もう少しで家に到着する。その時になって、知恵ちゃんは空を見上げながら、小さな声で亜理紗ちゃんに聞きました。


 「……メロンソーダ好き?」

 「メロンソーダ好き」


 青い空には分厚い雲がかかっており、それはブルーハワイの中にバニラアイスを入れたみたいに見えます。でも、体育の授業の終わりに桜ちゃんから言われた時から、ずっと知恵ちゃんの気持ちはメロンソーダです。


 「アリサちゃん……メロンソーダって、どこに売ってるんだろう……」

 「……レストランとか」


 スーパーマーケットに行けば、ぶどうソーダやオレンジのソーダ、コーラや透明なサイダーは売っています。でも、メロンのソーダというのは、あまりペットボトルで売られておらず、もっぱらレストランのドリンクバーで見かけるものです。そんなメロンソーダを想いながら家へ入ろうとする知恵ちゃんを、亜理紗ちゃんはつぶやくようにして呼び止めました。


 「……メロンソーダ、うちにあるけど」

 「……」

 「……あるけど」

 「……え?」


 メロンソーダは外食した時に飲むもの。そう考えていた知恵ちゃんが、おどろきながら振り向きます。でも、今もまだ家に残っているのかは解らないので、確認してから電話をくれると言い亜理紗ちゃんは家に入っていきました。


 「ただいま……」

 「おかえり……どうしたの?」

 

 家に帰ってきた知恵ちゃんはランドセルも下ろさずに電話の前で待機しており、それをお母さんも不思議そうにながめています。2分ほどして電話が鳴って、知恵ちゃんのお母さんが受話器を取ります。


 「はい……あっ。アリサちゃんのお母さんですか?」


 短めに通話を終えて、お母さんは知恵ちゃんに亜理紗ちゃんの家へ行くよう伝えました。汗だくではみっともないので、ウェットティッシュで体だけ拭いて、キレイな服に着替えさせてからお母さんは送り出します。


 「知恵ちゃん。どうぞ」

 「おじゃまします」


 亜理紗ちゃんのお母さんに迎えてもらい、家の中へと案内してもらいました。知恵ちゃんはペットボトルに入ったメロンソーダを想像しつつ、台所のある部屋へと入ります。亜理紗ちゃんも準備万端で待機していました。


 「ちーちゃん。あったよ。メロンソーダ」

 「……?」


 テーブルの上にはメロン味のかき氷のシロップと、透明な炭酸水の入ったペットボトルが置かれていました。なぜ、それが用意されているのか。何秒か考えた末、知恵ちゃんはメロンソーダの正体に気がつき感動しました。


 「アリサちゃん……天才なの?」

 「いえ……ちがいますけど」


                                 その71の3へ続く

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