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その71の1『炭酸水の話』

 夏です。太陽の光は白く熱を持ち、ゆらぐほどに空気は沸き上がっています。知恵ちゃんたちは体育の授業で校庭に出ており、プリントを先生に渡しながら順番に鉄棒のテストを受けています。


 「次の人」

 「はい」


 プリントには鉄棒を使った技がリストされていて、ただぶらさがるだけものものから逆上がりまで、難易度順に幾つも書かれています。知恵ちゃんは背が小さいので、下から2番目の高さの鉄棒の前に立ちました。プリントにかかれている技の中で最も簡単なのは、ただ両手でぶらさがる技です。


 「……前回りやります」

 「どうぞ」


 ぶらさがりの次に難しいのは、手足を使って鉄棒につかまる『ぶたの丸焼き』という名前の技です。それをするのが知恵ちゃんははずかしいので、次に難しい前回りをやって、そちらができれば『ぶたの丸焼き』はやらなくてすみます。


 「……んんっ!」

 「……はい。合格」


 友達の亜理紗ちゃんと授業外に練習していたので、逆上がりは出来ないまでも、かろうじて前回りはできました。ただ、クラスメイトの桜ちゃんは鉄棒に片足をひっかけて回る技をやっていたり、もっと上手な人になるとサーカスの曲芸とも見える奇妙な技を繰り出していました。


 「知恵ちゃん。やったね」

 「練習してたからできた……半分くらいしか自信なかったけど」


 友達の百合ちゃんは知恵ちゃんの横に座ると、他の子の鉄棒する姿を見ながら声をかけました。百合ちゃんのプリントにも前回りのところに赤い丸がついており、みんな鉄棒の初歩までは合格したことが解ります。そこへ、桜ちゃんもやってきました。


 「2人は、どうだった?」

 「私もできたし、知恵ちゃんもできたよ~」

 「できた。桜ちゃんは?」

 「ひざ掛け回りはできたけど、前方支持回転は、ちょっと失敗しちゃった」

 「ん……なに?」

 「前方支持回転」


 聞き覚えのない技名が桜ちゃんの口から出てきて、知恵ちゃんは聞き返しながらもプリントの下の方へと目を向けます。そこには確かに『前方支持回転』という技名が書いており、どのような動きで回るのかも絵で解説されていました。でも、それを見ても知恵ちゃんは技の想像がつきませんし、こんな難しそうな技を見てしまうと初心者としては先が思いやられます。


 「み……水を飲んでくる」

 

 今日は日差しが強く、ただ校庭の砂の上に座っていては本当に丸焼きになってしまいそうです。学校から校庭へ出るための小さな玄関前には、水を飲んだり手を洗ったりできる水道が設備されています。そこへ足を運び、知恵ちゃんは蛇口の栓をひねりました。


 「……ふぅ」


 ぽかぽかしていた両手が、水道から流れ出る冷たい水で一気に冷やされます。よく手を洗って、手に溜めた水を顔に押しつけてみます。顔から首元をつたって流れた水が、汗ばんだ体操服の中に入ります。ゆっくりと体を冷やしてから、汗をおぎなう程度に少しだけ水を口に含みました。


 「ただいま……」

 「おかえり~。知恵ちゃん、大丈夫?」

 「うん。ちょっと涼しくなった」


 知恵ちゃんは鉄棒の近くまで戻り、また鉄棒の順番待ちに加わります。知恵ちゃんが汗っかきなせいか、百合ちゃんや桜ちゃんに比べて、多く汗が流れています。どうすれば涼しくなるのかと、知恵ちゃんは百合ちゃんに相談してみました。


 「百合ちゃん。暑くないの?」

 「暑いけど……そうだ。ボウシ、白色にしてみれば?」

 「……?」


 知恵ちゃんたちはボウシを被っていて、それは表が赤色、裏地が白色をしています。よく見ると、百合ちゃんも桜ちゃんも白い方を上にして被っており、知恵ちゃんだけは赤色を上にしていました。


 「色で変わるの?」

 「白を上にした方が涼しいらしいよ~」

 「そうなんだ!」


 いいことを聞いたと、知恵ちゃんは紅白ボウシを裏返しにして、白色にして被り直してみます。


 「……」


 体感、あまり違いが解らず、少しして知恵ちゃんは再び水を飲みに行きました。


                              その71の2へ続く

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