その70の3『氷の話』
冷たい朝の外気にそなえて厚着になり、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんの元へと向かいます。家の外へ出ると、すでに亜理紗ちゃんは謎の物体の発掘を進めていて、園芸用の小さなプラスチックのスコップで雪山に穴を開けています。
「アリサちゃん。何か解った?」
「ほってもほっても、何かは解んないけど」
小さな雪山とはいえ、全て掘り返すのは亜理紗ちゃんには無理そうです。なので、あちらこちらを掘って雪の中のものを探しているのですが、どこを掘ってもロープのような物の一部分が出てくるばかりです。
「ちーちゃん。これ、もしかして……すごく長いのかな?」
「ヘビ?」
「ふさふさしてるけど……ヘビなの?」
知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは実物のヘビを見た事はありませんでしたが、こんなに毛が生えているものなのかと考えれば不自然だと判断できます。むしろ、これはライオンのシッポにも似ていて、うねうねしながらも短い毛が生えそろっています。
「……」
知恵ちゃんも手で雪を掘ってみます。先端の毛だけが緑色で、あとは黄色くて長いものが、どこを掘っても一部分だけ出てきます。それが全て繋がっていると考え、亜理紗ちゃんは長い何かを辿って、雪山の裏側にもシャベルを入れてみます。
「……ん?」
「……?」
雪山の裏側から辿って、地面の雪も取り除いてみます。そこにも同じようなものが埋まっていて、どんどん庭の方へと続いているのが解ります。少しずつ掘り返しながら、2人は亜理紗ちゃんの家の裏側にある庭へとやってきました。そこには家の正面よりも多くの雪が積んであって、広ささえあればスキーができそうなほどです。亜理紗ちゃんは雪山に手をつけてみます。
「この雪の中に何かいるのかな?」
「何が?」
「なんだろう……」
黄色くて、先っぽだけ緑色のシッポ。そんなシッポを持った生き物は見た事がありません。どんな姿をしているのか、亜理紗ちゃんは雪に指をつけて絵を描いてみます。
「こんなじゃない?」
「これ、ねずみのチュウチュじゃない?」
「……そうだ!チュウチュだ!」
亜理紗ちゃんの描いた絵が学校の窓ガラスに描かれていたものに似ていたので、知恵ちゃんはチュウチュなのではないかと聞いてみます。亜理紗ちゃんも最近、テレビでチュウチュを見たばかりだったので、それに引っ張られてしまったようです。今度は知恵ちゃんが絵を描いてみます。
「……ちーちゃん。こんな恐ろしい動物、この世界にいるの?」
「そんなに怖い?」
知恵ちゃんの描いた動物は簡略ながらも、とがった爪や長いキバやがあり、目は鋭く三角で、長いシッポは体長の何倍も何倍もあります。もう絶対に危険な動物だと思い、亜理紗ちゃんは勝手にリボンをつけ足して描いてあげました。リボンがついていれば、大体の動物は可愛くなります。
「よし。ちーちゃん。掘ろう」
「うん」
中の動物を傷つけないように注意しながら、シッポを辿りつつ雪山をけずっていきます。雪山は柔らかい雪が積んであってまだ固まってはおらず、奥へ進むと足は雪に埋もれてしまいます。このままでは発掘が続けられないので、2人は家に帰って長くつにはき替えてきました。雪山の周りを移動しながら、掘れば掘るほど長いシッポを探し出していきます。
「すごい長いシッポだ。ちーちゃんの髪みたい」
「私は、ここまで長くないけど……」
あまりにもシッポらしきものが長いので、知恵ちゃんはシッポなのかすら疑い始めています。そんな中で、急にシャベルは雪山の固さをつつきました。
「……?」
雪山の柔らかな雪を手ではらってみます。すると、雪山の中に氷が詰まっているのが解りました。シッポは氷の奥へと続いています。
「ちーちゃん。どうする?」
「……う~ん。氷をこわさないと」
しっぽの根元にある本体は気になりますが、シャベルでは氷はくだけません。そこで、亜理紗ちゃんは氷を砕く道具について検討し始めました。
「……カキ氷機」
「それじゃ無理だと思うけど……」
その70の4へ続く






