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その70の1『氷の話』

 チラチラと、窓の外には雪のつぶが舞っています。教室の中はヒーターに温められていて、温度差でガラスはくもりついています。


 「あ、ねずみのチュウチュだ~」


 知恵ちゃんは窓のくもりを通して、積雪の具合を見ていました。その横で、百合ちゃんは窓ガラスのくもりに指をつけて描かれた、ネズミのキャラクターの絵を発見します。誰が描いたかは解りませんが、それは簡単に顔だけ描かれていました。


 「百合ちゃん。それなに?」

 「ねずみのチュウチュだよ~」


 百合ちゃんは誰かが描いた落書きにつけたして、顔の下に体も描いてあげます。ただ、やや頭に対して体が小さく、あまりバランスがよくありません。さらに体を大きく書き足したら、今度は大きすぎて太ったみたいになってしまいました。


 「百合ちゃん。それは強そう」

 「力持ちチュウチュだ」


 ネズミのキャラクターに強そうな体をつけてあげたところで、次の授業のチャイムが鳴りました。理科の授業では昆虫について勉強します。知恵ちゃんは教科書にのっている虫の写真が苦手なので、そちらをあまり見ないようにしながら先生のお話を聞いています。


 「昆虫は体の構造が……」


 先生が虫の絵を黒板に描き、体の作りを説明してくれていますが、その絵があまりにも簡略化されていて、もう丸印に毛が生えたものにしか見えません。先生の描いた虫の絵なら怖くないので、知恵ちゃんもマネしてノートに描いていました。


 授業が終わり、また知恵ちゃんと百合ちゃんは窓際にあるヒーターの近くで温まっていました。理科の授業の前に描いたネズミの絵はくもって消えかかり、まるで氷に閉じ込められたようです。日直の生徒が消している黒板の絵と、ガラス窓のネズミの絵を見比べて、友達の桜ちゃんが百合ちゃんをからかっています。


 「チュウチュと、先生の描いた虫、そっくりじゃない?」

 「虫じゃないよ~。ネズミのチュウチュだよ」

 「……」


 知恵ちゃんは消えかかっているネズミの絵を見て、また外の景色に視線をくぐらせます。家の屋根からはツララが下がっており、それは地面に積もった雪まで達する程の長さです。ガラスに指をつけてみます。冷たい感触と、結露の水が伝わりますが、とけてはなくなりません。


 「知恵。何を見てるの?」

 「ガラスが解けた氷みたいだ……」

 「……?」


 知恵ちゃんに言われて、桜ちゃんと百合ちゃんもガラス窓をじっと見つめます。透明で硬くて、見た目は氷もガラスも似ています。でも、ガラスが気温で解けてなくならないことは、みんな知っています。桜ちゃんはガラスよりもっと氷に似ているものを思い出し、知恵ちゃんに教えてあげました。


 「この前、おばあちゃんにもらったお菓子の方が、もっと氷っぽかったんだ」

 「なに?」

 「氷砂糖」

 「それは……氷なの?お砂糖なの?」


 氷砂糖と聞いても想像はつきませんでしたが、アメのようなものだと聞いて知恵ちゃんも大体の予想はつきました。言われてみれば、アメもガラスに似ていますし、すると宝石だってガラスに似ていますし、アメにも似ています。ただ、宝石やガラスはとけませんし、アメも常温で置いておいても溶けません。知恵ちゃんは不思議そうにしています。


 「知恵ちゃん。私、前にコップ作ってるところを見たんだけど……」

 「……?」

 「ガラスって溶けるんだ」

 「え……」


 ガラスすら溶けると聞いて知恵ちゃんの疑問は最高潮に達し、やがて考えるのをやめました。帰りの会では先生が雪についての注意をあげていて、ツララにも気をつけるよう告げています。


 「屋根の下は歩かないように。あとツララは危ないので、触らないように。あと、汚いので食べないように」


 放課後、すぐに亜理紗ちゃんが知恵ちゃんを迎えに来てくれたので、桜ちゃんや百合ちゃんと一緒に玄関へと向かいました。雪ぐつはスニーカーに比べて重く、長ぐつを下駄箱におりまげて押し込んでいる生徒もいます。すっかり雪は降り積もっていて、学校の前では先生が雪かきをしていました。

 

 「じゃあね。知恵」

 「うん」


 学校の前で桜ちゃんたちと別れ、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんと帰路につきます。その途中、屋根から下がっている特大のツララを見つけ、亜理紗ちゃんは物欲しそうに立ち止まりました。


 「すごいツララだ。剣みたい」

 「あぶないよ……」


 それからも亜理紗ちゃんはツララを見つけると指さしてみるのですが、どれも高いところにあって取れませんでしたし、落ちてくると非常に危険です。結局、雪玉だけ手ににぎったまま、2人は家まで辿り着きました。


 「……ちーちゃん。これ」

 「……?」


 知恵ちゃんの家の雨どいの先に、小指ほどの小さなツララがあります。知恵ちゃんの顔色をうかがいつつ、亜理紗ちゃんはポキッとツララを取りました。今まで見てきたものとは比べ物にならないほどの小ささですが、亜理紗ちゃんはツララを手に入れて嬉しそうです。


 「アリサちゃん……それで満足なの?」

 「満足」


                                その70話の2へ続く

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