その69の3『やぶれたページの話』
絵本の最後のページと聞いていたので、知恵ちゃんは1枚だけだと決めつけていたのですが、亜理紗ちゃんからは最後のページの次があることを明かされました。さっきの1枚に重ねて、そちらの紙も開いてみます。
「……?」
地球を飛び立ったロケットは白い光を放ち、宇宙の中で輝いています。特に文字も書かれていなかったので、何が起きているのかを知恵ちゃんは亜理紗ちゃんに無言で尋ねました。
「それはね。ワープしたところ」
「ワープ?」
「ずっと時間がかかるから、ワープして早く星に帰ってるところ」
ワープしているところで物語が終わる訳もなく、さらに亜理紗ちゃんのランドセルからは続きが出てきます。次のページではロケットが星に突きささっていて、そこから男の子が勢いよく飛び降りていました。
「アリサちゃん……ささっちゃってるけど」
「だって、ロケットが飛んでいったら、先がとがってるから刺さるでしょ?」
「そうかもしれないけど……」
豪快な着陸を果たした男の子は、何か箱のようなものを持っています。そこには小さく、ひらがなで『おせんべい』と書かれていました。
「おせんべい?」
「遠くから帰ったら、おみやげを買ってきた方がいいんだ」
ついには4枚目の最後のページが手渡され、知恵ちゃんは物語の結末を目にしました。最後の最後のページに描かれていたのは、おせんべいの絵です。
「男の子は、おせんべいを友達と食べて、それで終わり」
「おせんべい物語じゃん……」
亜理紗ちゃんの描いた物語の結末が、あまりにも突拍子もなかった為、知恵ちゃんは4枚の画用紙を通して読み直したあと、丁寧にたたんで持ち主に返しました。自分の考えた結末も変である自覚はあるのですが、亜理紗ちゃんの作った最後のページに比べると、まだ幾分か納得がいくものなのではないかと知恵ちゃんは思い直しました。
遅刻せずに学校へ到着し、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんと別れて自分の教室へと向かいます。そして、友達の桜ちゃんと百合ちゃんにも絵本の最後のページがなかったことを話し、自分で作った最後のページを見てもらうことにしました。
「知恵……これは、世界の終わりを描いたの?」
「ちがう……」
「知恵ちゃんの絵って、迫力あるよね~」
「そうかな……」
桜ちゃんからもお母さんと同じ感想をもらい、百合ちゃんからは絵の力強さをほめられます。同時に知恵ちゃんは亜理紗ちゃんの作った結末についても話し、そちらについては『アリサちゃんっぽい』と2人から意見をいただきました。
「ちなみに……知恵。それ、なんっていう本なの?」
知恵ちゃんのお話を聞いている内、桜ちゃんは作品のタイトルに興味を持ちました。知恵ちゃんはうろおぼえながら、絵本の名前を口に出します。
「……それ、お母さんが持ってた気がする」
「そうなの?」
「絵本じゃなくて、小説だったけど。同じ名前のタイトルだったはず」
「どんな終わり方なの?」
「私は読んでないけど……明日、見てきてあげる」
絵本は持っていないにしろ、その原作である本に心当たりがあると桜ちゃんは言います。でも、結末が解ったところで、きっと亜理紗ちゃんの作った最後のページよりは予想を超えてこないだろう。そう、みんなは考えていました。
次の日の朝、桜ちゃんが知恵ちゃんの机の横にやってきました。本の結末について見てきてくれたのだと思い、すぐに知恵ちゃんはほんの話題を口にしました。
「桜ちゃん。どうだった?」
「あ……うん。私、最初から最後まで読んだんだけど……」
「しっかり読んでくれたんだ……」
わざわざ本を読んでくれたと知り、知恵ちゃんは申し訳なさそうに頭を下げます。その後、桜ちゃんは亜理紗ちゃんの描いた結末を聞いたのよりも、もうちょっと困惑したような様子で、知恵ちゃんにお話の最後を耳打ちしました。
「最後なんだけど……実は」
「……え?」
桜ちゃんから聞いたお話の最後は、知恵ちゃんが想像していたものとも、亜理紗ちゃんが描いたものとも、全く違うものでした。男の子がいなくなってしまったという思いがけない結末に呆然とした後、知恵ちゃんは自分の描いた最後のページを広げてみます。そして、どうして、何を考えて、男の子が消えてしまったのか、その日ずっと1人で考えていました。
その70へ続く






